Girl!Girl!Girl!

「麻衣、僕らからのホワイトデーのお返し何がいい?」
「欲しい物があれば言え」
「二人分だから豪勢なのでもいーよー」

 朝食後の紅茶を楽しんでる時に突然二人から聞かれた。
 さっきから二人の専用糸電話で会話してるなと思ったら、そんなことを話してたのか。
『ホワイトデー何か用意してる?』
『いや。お前は?』
『僕もまだ。一緒に買いに行く?』
『僕の分も適当に買っとけ』『一緒に行こうよ。僕も何用意しようか迷ってるんだよね』
『なら本人に聞いてみればいい』
『そうしようか』
 などと会話してたんだろう。何で口を使わないのかな。これだからナルがどんどん無精者になっていくんだと思う。

「そうだなぁ・・・・・・」
 先月のバレンタインデーは『二人分いっぺんに欲しいな♪』と悪乗りしたジーンとそれに乗っかったナルに散々な目に遭わされた。とても朝から口に出せる内容ではない。
 欲しい物は特に無いし、してもらいたいことも得に無い。
 どちらかというとバレンタインの時の意趣返しがしたい。
 となれば・・・

「何でもいい?」
 小首を傾げて上目づかいをして、精一杯可愛らしく見えるような仕草をしてお願いする。目の前の双子以外には使ったことないから一般的な評価は知らないけれど、それなりに可愛く見える、はず。
 ジーンはこれで釣れる。すぐ「うん♪」なんて言ってニコニコしてる。
 ナルは一瞬眉を潜めたが反対しないので特に異存はないらしい。一応釣れてるのかもしれない。
 二人の返事にニッコリと笑って望みを口にした言った。
「ホント?じゃぁ私のコーディネートで三人デートしよう!」
 麻衣のお願いにジーンは「お安い御用だよ!」と快諾し、ナルもこっくりと頷いた。  


 * * *


「・・・で、コレなわけね・・・」
「・・・・・・・・・・・」
 ホワイトデー当日、約束通り双子と麻衣はデートに出掛けた。
 ご機嫌な麻衣は満面の笑顔で二人に腕をからめて歩いているというのに、ジーンは困り顔、ナルは見事な仏頂面だった。
 それもそのはず、二人は麻衣のコーディネートによってとんでもない恰好を強いられていた。
 ナルはいつも通りの黒い恰好。だがいつものスーツではなく、なんと黒のロングワンピースだった。タイトなシルエットのハイネックタイプ。その上にふんわりとした春物のコートを羽織っている。女にしては広い肩幅と喉仏をうまく隠している。しかも頭には肩まである長髪のウィッグまで付けられて、化粧まで施されている。
 ジーンは丈の長い太ももまである白いタートルネックのコットンセーターにベージュのチノパンをはいていた。腰には大きめのバックルで凹凸をつくり、キャメルのショールを羽織って女性のようなフォルムを作りだしている。頭には軽くウェーブがかかったウィッグつき。もちろん化粧もバッチリだ。
 ナルは長身でエキゾチックな美女に、ジーンはコケティッシュなスマート美女に変身していた。普通十八歳の男が女装したら気色悪い結果になるだけなのだが見事にタイプの違う美女に変身している。男臭さの薄い類稀な美貌と線の細い二人だから出来る芸当だった。
 衣装協力はもちろん綾子さま。あとで写真を送ることを約束して衣装を提供してくれた。

「麻衣、これはないよ~」
「麻衣、ふざけるな」
「文句は聞かないよ~、『うん』って言ったじゃん!」
「そうだけど・・・いつまでやるわけ?」
「ホワイトデーの間ずっと!今日一日!」
「勘弁してよ~」
「バレンタインの時の仕返しか?」
「仕返しされるような心当たりがあるんだ?」
「「・・・・・・・・・・・・」」
 たっぷりすぎるくらい心当たりがある双子は黙るしかない。

「女の子同士で行きたいとこあったんだよ。でも誰も都合が合わなくてさー・・・」
 二人とくっついてるせいで学校の女の子からはハブ状態の麻衣には女の子の友達が少ない。ナルはもう卒業してしまったが、事故のせいでダブってしまったジーンは麻衣と同じ学年なので今も一緒の学校に通っている。といってもジーンは遅刻とサボりの常習犯だ。それでも成績上位なのだから侮れない。やはりナルのお兄ちゃんだ。

「真砂子ちゃんは?」
「最近特番多くて忙しいから遊んでくれないの」
「綾子は?」
「こういう女の子同士の楽しみは綾子とはちょっとねー」
 綾子が聞いたらお仕置き確実だ。ちなみに自分たちも女の子同士ではない。何かが違う。
「それにさ、普段の二人と私が歩いてると針のムシロなんだもん。たまには気楽に二人と歩きたかったし」
「針のムシロ?」
「そ、女の子からの殺人目線。女の嫉妬は恐ろしいんだよ~」
「「・・・・・・・・・」」

 麻衣が自分達といることで女子に妬まれているのは知っている。歩いていてもあからさまに侮蔑の言葉をぶつけられるところを見た事もある。その都度麻衣は「平気平気~」と笑っているがそれだけではないはずだ。

「まぁいっか、この恰好だと麻衣が大胆になってくれて役得だし」
「大胆?」
「麻衣が自分から腕をからめたり、手つないでくれるのって初めてじゃない?」
「そだっけ?」
 ナルをみると、こっくりと頷いた。
「麻衣からは、ないな」

 小さい麻衣はいつも遅れてしまったり迷子になるので人ごみの多いところは手つなぎが必須だ。だけど麻衣は自分からは手を伸ばさない。恥ずかしいのと周りの視線が気になって躊躇してしまうらしい。その間に双子から手を伸ばされることがほとんどだ。ジーンはもちろん、ナルでさえ自分から手を伸ばす。

「女の子同士だと思えば気楽なんだよね。こんなことも平気~♪」
 そう言って麻衣はぎゅーっと後ろからジーンに抱きついた。
「何で前じゃないの?」
「なんとなく」
 身の危険を感じるからに決まってる。ジーンが女装してるからって遠慮をしないとは限らない。その点ナルは安心だ。今度はナルの方へ正面から抱きついた。
「あっズルイ!」
「へっへっへ~♪」
「・・・・・・・」
 ナルは麻衣に抱きつかれて満更でもないのだが、恰好が恰好だけに素直に喜べず眉間の皺は消えないまま。
「えいッ」
「ちょっ重いよ~」
 悔しいジーンは後ろから麻衣に抱きついた。どう見ても2人の美女&かわい子ちゃんがじゃれてる風にしか見えず、周囲は微笑ましそうにくすくすと笑っている。
「これで麻衣からちゅーしてくれたら最高なんだけど」
「それは無理」
「僕も断る」

 麻衣は双子を連れてレディース限定ケーキバイキングに行ってさんざ食べた後、今度は可愛い雑貨屋と洋服屋さんでお買い物をした。女の子同士と勘違いした男グループにナンパもされ、その時の二人の嫌そうな顔に麻衣は爆笑した。
 こうして麻衣は意趣返し兼、気楽なWデートを十二分に楽しんだ。

 夕食後・・・

「あー楽しかった!もう帰ろうか」
「何を言ってる?まだだろう」
「そうだよ麻衣、まだ寄るとこあるでしょう」
「へ?どこへ?」

 するとジーンはにっこり笑ってある場所をを指さした。ナルも無言で視線だけ送る。
 指と視線の先には・・・ネオンが派手なホテル街。

「ちょっ冗談!嫌だよ!!」
「外でデートといったらホテルは付きものでしょう?」
「いやいやいや、そんなことないし!」
「遠慮するな。ここまできたら最後まで付き合うぞ?」
 そろってにっこりと艶やかに微笑む姿は女でも見惚れるくらいな美人だ。だけど中身は立派な男で、しかも一人はPK付きの二人に挟まれた麻衣に逃げる術はなく・・・。

「やだー!!!」

 こうしてホワイトデーの夜、美女二人に女の子が拉致られてホテル街に消えていくという、世にも珍しい光景があったそうな・・・。




終わっとけ。


VD話を書く気がないのでお蔵入りしてたブツです。すっかり忘れてたけどエダさんのWD話を読んで思い出したのでUPです。偶然にも『コーディネートされる博士』という発想が被ってて笑えました(笑)
その後の展開はもちろん女装のまま。びば百合双子麻衣(ヲイ)。

2011.4.17
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