My Olive


 麻衣の「ご飯だよ~」の掛け声に、ダイニングテーブルに着席した双子はテーブルの上に並べられた料理に驚いた。

「・・・偏り過ぎじゃないか?」
「麻衣は僕達にポパイになって欲しいの?」

 本日のディナーは見事に緑だらけ。
 ほうれん草とトマトのサラダ、ほうれん草入りチーズキッシュ、ほうれん草のごま和え、唯一緑じゃないのはメインのカレーだがこれもほうれん草入りのベジタブルカレーだった。
 見事にほうれん草だらけ。ポパイでもあるまいし、何故こんなにほうれん草ばかり食べなければならないのだろう。ナルじゃないが偏り過ぎだ。

「ポパイ?」
「あ、知らない?ほうれん草が好物のポパイが主人公のアニメ」
「ふうん」

 パイプを加えた水兵服の主人公ポパイがピンチの時に好物のほうれん草を食べると、とたんに元気になって超人的な強さを発揮して恋人のオリーブの危機を救うというコメディだ。アメリカ漫画が原作の1970年代のアニメで、米国と日本それぞれで放送されたが麻衣は知らないようだ。

「今日さ、スーパーに行ったらほうれん草が一束95円で安かったの」
「へー」
「・・・・・・・・・」

 それがどんなに安いのか、普段買い物をしない双子はピンとこない。ほうれん草はモノにもよるが通常なら200円前後だ。半額以下なので麻衣が喜んで買うのも無理は無い。

「でもすっごくたくさん余ってたの。特価コーナーに山盛りで置いてあってほとんど売れてなかったみたい。埼玉県産で問題ないのに、『ほうれん草はねぇ』って呟きながら避けてくの。隣の一本98円の大根は残り1本だったんだよ!その隣の茄子も5袋しかのこってないのに!」

 先日原発事故があった県のほうれん草が出荷制限になった。事故があった県の野菜を忌避するのは分かる。しかし出荷制限を受けたのが同じというだけで他の県の同種野菜まで避けるのはただの被害妄想と言えよう。

「ひどい話だよね。一生懸命作ってる農家の人に悪いと思わないのかな!ムカついたからいっぱい買ったの」
「なるほどね・・・」
「それでこのほうれん草だらけの食卓になったわけか・・・」

 正義感の強い麻衣らしい行動だ。最初は安さに感動し、次は怒りと勢いに任せて大量に買ったのだろう。今も麻衣はプリプリ怒りながら目の前のほうれん草をパクパクと食べている。

「ほらこんなに美味しいのにさ!風評被害もいいとこだよ!!」
「お前が怒っても仕方ないだろう」
「麻衣が怒った分だけ疲れて損するだけだよ?」
「そうだけど!腹立つんだから仕方ないじゃん」

 子供のように頬を膨らませ憤る姿は微笑ましいのだが、怒ったまま食べるのは精神的にも健康的にもよろしくない。

「怒りながら食べると消化にわるいよ?」
「怒りながら食べると太るぞ」

 宥めて止めさせようとするのは同じなのに、出てくる言葉はこんなにも違う。
 
「野菜だから食べすぎても太らないもん!」
「油で炒めれば十分カロリーが高いのでは?」
「うっ・・・」
「僕はもうちょっと太ってくれたほうがいいなー。抱き心地が良くなる」
「そこさりげにセクハラ!」
「正直な感想だよー。ちょっと太めなくらいがぷにぷにしてて気持ちいい」
「今は骨が当たるな」
「ソレ言うなら二人も太りなよ。骨が当たって痛いのは一緒だい」

 ナルもジーンも平均的体重より下めだ。万歳をすると肋骨が見えるくらい。圧し掛かられても重くないのはいいけれど骨が当たって痛い時がある。どういう時かは内緒だ。

「そう?」
「へぇ?」

 二人が意味ありげな視線を送るがそっぽを向いて無視してやる。さりげに話をすりかえられ変なことを言ってしまった。麻衣だって怒っても仕方ないと分かっている。でも腹が立つものは仕方ない。今度は怒りではなく羞恥で顔が熱い。

「それはともかく!暫くほうれん草メニューが続くからね。覚悟しといて」
「はーい」
「別に構わない」
「良かった。なんせカゴいっぱい買っちゃったから」

「カゴいっぱいって・・・」
「・・・・・・」

 いくら何でも買い過ぎだ。毎日こんなホウレン草料理が続くのだろうか?いくら嫌いではないとはいえ、そう毎日食べ続けるほど好きな訳ではない。
 だが反論出来るはずもなく、代わりにジーンは苦笑し、ナルは溜息をついた。

 怒れる麻衣は誰にも止められないと言ったのは安原だったか・・・

 無敵のオリーブのためにホウレン草を食べ続けるポパイ達だった。






終わっとけ。




時事ネタで失礼。前半事実です。食べきれるならカゴいっぱい買いたかったけど、我が家では三束が限界でした。それも2週間経ってもまだ残ってる・・・。協力したいけどそんなに食べれません。
2011.4.3
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