Honey Honey


「霊媒能力なんかあってもつまらないよねー・・・」

 事務所のソファで寝転がりながらジーンが呟いた。心霊現象の調査事務所で呟くにはいかがなものか。幸い二人以外傍にはいない。お小言を言いそうなリンは資料室だし、麻衣はまだ来ていない。

「ナルのようなPKなら悪戯し放題で面白かったのに」
「無くて幸いだな。お前の悪戯は碌なものが無い」

 ジーンの提案で無理矢理付き合わされた悪戯の数々を思い出してげんなりとするナル。最近の被害者は主に麻衣だが、昔はルエラとマーティンが主な被害者だった。他にはまどかや研究所の面々。ジーンは誰にでも気遣いを見せるが、悪戯をするのは本当に近い人達のみだ。今思えば、あれはジーンなりの甘え方だったのだろう。

「ナルは使い方を知らないだけでしょ。発想が貧困なんだよ。持ってる能力を楽しまないと!」
「だったら自分の能力で楽しめ」
「それがなかなか思いつかないんだよねぇ。脅すのには効果的なんだけどさ」

 残念そうにあっさりと物騒なことを言う。
 ジーンはその気になれば霊に語りかけて誰かに漂着させることも、霊体が見えるほど場を活性化させて脅かすことも出来る。ジーンの能力は霊の近くに寄るだけでなく、自分のところへ引き寄せることも可能なのだ。
 過去に数回、ジーンを本気で怒らせて心の底から恐怖を味わった人間を見た事がある。
 あれを見る度に、この兄を怒らせてはならないと思う。懐が広いというのか、広く深く本当に優しくすることも出来れば、驚くほど残酷にもなれる男だ。到底自分には真似出来ない。せいぜい責任のある相手へ配慮することしか出来ない。まぁそれ以上する必要もないのだが。

「例えばさ、デートで遊園地行って怖い館とか行くじゃない。中で『あそこに本物がいるよー』とか言って脅かすと、普通の女の子なら『うそ!やだ怖い!』とか言って抱きついてくれる。でも麻衣は『え?どこどこ?私には見えないなぁ』がせいぜいだもんね。つまらないったらないよ」
「そんなことをしていたのか」
 ジーンの霊媒能力活用法を聞いて呆れる。やはりPKがこいつになくて幸いだ。
「して無いけど、恋人が出来たら有りかなって思ってた」
「?いただろうが」
「友達に毛が生えたようなのならね。能力を教えたり、ナルに紹介するほどちゃんと付き合うまでいった子はいなかったよ」

 そう言えばジーンはしょっちゅう誰かとデートをしていたが、相手を恋人として紹介されたことは無い。あれはお試し期間だったのか。

「麻衣がこの世界に理解有りすぎるんだよね。幽体離脱して珍しいとこへデートするくらいが関の山。それも霊体じゃなんも出来ないしなぁ・・・」
 霊体じゃなければ何がしたいんだか・・・。分かりすぎて聞きたくもない。
 十分霊媒能力で楽しんでいるように聞こえるがまだ足りないのだろうか。

「何故普通に構うだけで満足できないんだ」
 ジーンは自分と違い積極的に麻衣を構う。週末にデートしたり、外食に誘ったり、ちょっとしたプレゼントをする。恋人同士で行われるスキンシップは十分しているというのに何故それ以上を望むのか。

「優しくして嬉しそうに笑ってくれるのを見るのも楽しいんだけど、驚いたり怒ったりする麻衣って可愛いいんだよねー。ナルも麻衣のいろんな顔を見たいと思わない?」
「・・・・・・」

 ジーンは悪びれずに、にっこりと笑って言う。天使もかくやと言われたあの笑みだ。こんな顔をして悪戯されれば誰でも許してしまうだろう。
 だが麻衣は平気でひっぱたくし、笑顔で誤魔化されたりはしない。
 あまり顔に執着が無い性質なのだ。恋人になってからは特に無頓着になった気がする。
 ある日ジーンが麻衣を怒らせて頬を叩かれて、見事な赤い手形をつけられたことがある。この顔に赤い手の平の叩かれた跡を見ると自分ですら落ち着かないのに麻衣は全く気にならないらしい。その日は一日中怒っていた。一体何をしたのだと聞いても真っ赤になって「知らないッ!」と言って教えなかった。ジーンもニヤニヤして言わなかった。あれがヤニ下がった顔と言うのだろう。同じ顔で見たくはなかった。
 ジーンは麻衣に何をしても、何をされても楽しそうだ。嬉しくて仕方ないという顔をしている。まるで酒を飲んでるかのような浮かれようだ。
 
(そうか、ジーンは浮かれているのだ・・・)

 初めて本気で好きになった女と結ばれて一緒に暮らしている。所謂ハニームーン状態。それなら必要以上に相手に接触し、構い、多少歯目を外したくなっても仕方ないのかもしれない。

 そしてまた自分も・・・

「・・・・・・面白いのは認めてやる」

 麻衣が自分のせいで赤くなったり青くなったりする姿は正直面白い。気の強い麻衣が自分のせいで泣いた顔も悪くない。自分にはないと思ってた征服欲を煽られてもっと見たくなる。だから文句を言いつつも、結局はジーンの悪戯に加担してしまうのだ。

 こんな感情を抱くのは彼女だけ。
 こんな欲望を抱くのも彼女だけ。
 自分もジーンのことは言えない。十分浮かれている・・・。

 チラリとジーンを見ると麻衣には見せない男臭い笑みでニヤリと笑って同意した。
 視線を交わして微かに笑いあう。

 所詮は恋する男な双子だった。






終わっとけ。


双子のお惚気独白?
うちのジーンはこんな感じ。実は物騒な男で愛が偏ってます。ナルのが害はなかったりする。三人でくっついてれば周囲も平和です。


2011.3.27
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