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「この地域は午後8時から12時の間の停電グループに入ってるって」 今朝ジーンが電力会社のホームページを見て確認した。 昨日から計画停電が起きる日で計画地域住民は早めに帰宅するよう報道されていた。そのためジーンが停電地域を調べたのだ。自宅も会社も地域が入っているようなので、ナルも仕事を早めに終えて6時には帰宅し、ジーンも週末なのに遊びに行かずに帰宅することにした。麻衣もいつもより早めに食事の用意をして二人を待つことにした。 その結果、珍しくも午後6時には全員揃って食事をとり、7時には終えて夕食後のお茶を楽しんでいた。ただしジーンは週末の晩酌中でビールを飲んでいた。 「ホントに停電するのかなぁ」 「実際になるかどうかは直前まで分からないらしいよ」 リビングでくつろきながら、ジーンがネット情報を麻衣に教えた。 「節電の為の停電は仕方ないけど、やる正確な時間と地域を教えて欲しいよね~」 「無理だろう。詳細な時間を公開すると犯罪発生の危険性が増すからな」 麻衣の不満にナルは冷静に答える。 「そっか、じゃ仕方ないね」 麻衣はあっさり頷いて、キッチンに向かう。彼女は夕食の片づけが終わった後もキッチンで何やら作業をしていた。 「麻衣何やってんの?」 「停電対策!」 ジャジャーン!と手で掲げたのはジップロックに入れられた氷だった。 「氷?」 「そ!朝ジップロックに水を入れてそのまま凍らしといたの。停電で冷蔵庫の電源切れたときのために冷蔵室に入れといて保冷剤の代わりにするの。停電で断水になっても氷が溶けて水として飲める!一石二鳥の良い良いアイディアでしょ?」 「へー、なるほどね」 「ナル、お湯湧かせなくなっても飲めるように魔法瓶に紅茶入れといたから」 「ああ」 「ジーンもお菓子出しとく?」 「うん、チップスがいい。あとビールもう一本取って~」 「はーい。私はプリン出しとこ~」 麻衣はリビングテーブルにマグカップ2つと魔法瓶、ビールとスナック菓子、そしてプリンを並べた。 「最後に事務所から持ってきた充電式ランプを用意してっと・・・」 麻衣はぱたぱたと玄関から大きめの調査に使うランプを持ってきて、ドン!とテーブルの上に置いた。 「ヨシ完璧!いつでも来い停電!」 上機嫌でガッツポーズをとる麻衣は可愛いが意味不明だ。 「・・・何をそんなにはりきっているんだ?」 「もしかして、停電が楽しみなの?」 「うん。不謹慎かもしれないけどさ、停電って産まれて初めてなんだもん。ちょっと楽しみなんだよねー」 目をキラキラとさせる麻衣は可愛いが理解不能だ。 双子は恵まれない環境で幼少期を過ごしたので停電なんか何度も経験している。何が楽しいんだかわからない。 「調査で急に電気が消されるなんてよくあるだろうが」 「あれは恐怖体験であって停電じゃないよ」 「似たようなものだろうが」 「全然違うよ!いつ消えるかな~ってわくわく感がないもん!」 「予告されてるのにわくわく感もないだろうが」 「そうだけど、いつ消えるかまで分からないじゃない。いつ消えるかな~ってわくわくしない?」 きょとんと首を傾げる麻衣も可愛いがそれは同意しにくい内容だ。 自分たちが過ごした幼少期の場所は日本ほどライフラインが安定していない地域だった。停電が起きるときはいつも突然で何時復旧するかわからない。子供の頃はいつまでも続く夜は心細く、二人で身を寄せ合ってひたすら夜が明けるのを待っていた。これは国の違いが大きい。日本は余程のことがないと停電が起きない。ライフラインが非常に安定した国だ。消えてもすぐ点くだろうという安心感があるのだろう。だから点くまでの間を楽しむ余裕があるのだ。 同じ孤児でも国が違えばここまで違うのかと思うことが時にある。麻衣に自分たちのような経験がなくて幸いだとも思う。 「あ、8時だ。そろそろ始まるかな~」 麻衣は窓から夜の街を眺めた。6階の窓から見えるのは住宅街。繁華街と違いネオンのような明るさはなく、細い道の明かりと、各家庭の明かりがチラホラ見えるばかり。それも節電協力で普段より控え目な明かるさだった。 「消えないね」 「いや、あっちを見て見ろ」 ナルが指さした先に、ぽっかりと黒い円があった。それが少しずつ増えていく・・・。 「始まったみたいだね」 「うん・・・」 家の小さな明かりが消えていく。 明かりは各家庭に人がいて、そこで生活している証しだ。生きてる証しのようにも見えた。それが消えていく・・・。 見ていた麻衣は心細さを覚え、ふと隣に立つ二人の裾を握った。 「麻衣?」 「?」 ジーンがどうしたのかと聞いてくる。ナルも無言で視線をくれた。 明かりが消えていくことは命が消えていくことじゃない。誰にも見られなくなることじゃない。一人になることじゃない。分かってはいるが恐くなった。 そんな時に一人じゃなく、隣に二人がいる・・・。 すごく、心強かった。 もう不安は無く、二人に首を振って笑いかけた。 「んーとね、すぐそこまで暗くなってるのにここには来ないなぁと思っただけ」 わざとはしゃいだ声を上げて、暗くなってる地域を指さした。 黒い円はかなり近くまで来ていた。停電が始まってから暫くたったがまだ暗くならない。 「ここは外れたのかな?」 麻衣は残念そうな声を上げた。 「・・・・」 「・・・・」 麻衣を挟んだ二人はホットラインで密かに会話を交わす。 『ナル、麻衣の期待に答える気は無い?』 『くだらない』 『そうだけど麻衣楽しみにしてるじゃない。喜ばしてあげようよ。ナルも麻衣の喜ぶ顔見たいでしょ?』 『・・・・・・・・・』 『一回だけでいいからさ、駄目?』 『・・・・・・今回だけだぞ』 『うん♪』 パチッ! 突然部屋の電気が消えた! 「来たッ!?」 麻衣は嬉しそうな声を上げて「わー真っ暗だ♪」と一人はしゃいだ。 ジーンはその様子に「良かったねぇ」と笑い、ナルは呆れ混じりの苦笑をこぼした。 この停電はナルが起こした人口停電だ。お得意のPKで配電盤の主ブレーカーを落としただけ。待っていれば本当の停電が起きたかもしれないが、そんな不確かなものを待つよりは確実な手を使ったのだった。 ひととおりはしゃいだ麻衣は「明かり明かり!」と手さぐりでテーブルの上のランプを掴みスイッチを押す。 パッと、LEDの青白い明かりがリビングに広がった。 「ふわぁ~、驚いた。知ってても急に暗くなるとびっくりするねぇ」 青白い明かりの中でも、興奮に頬を染めているのがはっきりわかる。ニコニコ笑う麻衣は文句なく可愛い。『グッジョブ!ナル!』とジーンは心の中で親指を立てた。 麻衣は「興奮したら喉乾いた~」と言って魔法瓶からお茶をマグカップに注ぎ胸に抱えてソファに腰かけた。ナルも本を片手にソファに腰掛け、ジーンはビールを片手に腰掛けた。なんとなく三人並んで、暗闇が広がる窓を眺めた。 「二人といる時で良かったな」 「何が?」 「一人で停電なんか起きたら、寂しくて不安でどうしようもなかったもん。三人だから安心できるし、電気点くのまだかな、まだかな~って待つの楽しめるんだよ」 「・・・・」 「・・・そうだね」 ナルは無言で、ジーンは声に出して同意した。 幼いころ停電になったときも二人だった。二人だから乗り越えられた。 それが今は三人だ。十分だった。 麻衣はナルの手元を見て驚いた声を上げた。 「ナル、こんな中で本読むの!?」 「ああ」 「止めなよ。もっと目が悪くなるよ?」 「他にすることがない」 「うーん、確かに。暗い中でも何かやれること用意しとけばよかった。トランプでもやる?あれならちょっと暗くても出来るよね」 「冗談。それなら麻衣にトランスの訓練でもしたほうがいい」 「パス!嫌だよそんなの!」 「この暗さを有意義に活用できるだろうが」 「せっかくロマンチックな気分になったのに台無し!もっとマシな提案ないの?」 「あるよ?暗くても出来るイイこと」 ジーンがすっごく楽しそうに言い出した。 「・・・どんなの?」 その”イイこと”に少しばかり嫌な予感をしつつも、一応聞いてみる。 ジーンはにんまりと笑って麻衣に身を寄せ、ちゅっと目元にキスをした。 「ジーン?///」 「麻衣は可愛いよね♪」 ジーンはそのまま上体を倒して麻衣に覆いかぶさる。 「ちょっジーン!どこ触るのよッ///」 「麻衣の太ももと臀部?」 スカートの下に手をさしこみ手をスライドさせたり握りこんだりを繰り返しながら、麻衣の耳元で囁いて耳の下にキスをする。 「ひゃっ!」 くすぐったい感触に麻衣は首をすくめた。 「そうだな。本を読むより相応しい行為があったな」 横でパタンと本を閉じる音が聞こえたと思ったら、突然、”パチッ”と音がしてランプの電気が消えた! 「ナルが消したの!?」 ナルは麻衣の質問に答えず、麻衣へ身を寄せてきた。背中に感じるナルの体温がいつもより高い。それを意味することは一つで・・・。 (ぜ、前門の狼に、後門の虎?) 「ナ、ナルまで止めてよッ!!」 「何を?」 「だから手を止めてってば!」 「何故?」 「何故って・・・やっ・・・」 ナルは服の裾から手を侵入させる。右手で麻衣の背中のホックを外し、左手で素肌に直に触れた。もちろん柔らかなふくらみも。 もちろんその最中も、ジーンも手を動かし続けている。 「ちょちょちょちょっと!!!!!」 麻衣は二人に挟まれ身動きできず、不埒に動き回る手を止めることが出来ない。 「そういえばさ、停電あると出生率上がるんだって♪」 「こうしていれば暖房もいらない。お前の好きな一石二鳥だな」 麻衣の「そんなの知るかッ!は~な~せ~~~ッ!」と叫ぶ声を聞く者は双子のみ。 もちろん聞き入れられるはずもなく、助ける者もなく、訴えはそのまま闇に消えた。 ・・・停電も楽しく過ごせたようです(二人限定)。 * * * 翌朝、ナルがブレーカーを上げるまで冷蔵庫の電源は消えたままだった。当然冷凍室の中のアイスは溶けて、氷も溶けて庫内は水びたし。食材も痛んでいた。人口停電に気付いた麻衣は怒り狂い二人に『お触り禁止!』を言い渡した。 「えええっ!麻衣を喜ばせたかっただけなのにッ!」 「・・・とばっちりだ」 「問答無用!少しは反省しなさいっ!」 怒った麻衣と泣いた麻衣には誰も逆らえない。 自業自得な双子だった。 終わっとけ。 |
麻衣を構い隊。もしくは麻衣にセクハラし隊。そんな二人。 ジーンがいれば消耗する必要が無いので結構PK使ったんじゃないかな~という妄想設定でお送りしてます。あ、停電していく様子は想像です。うちの地域は外れてるんで実際になったことないんです。 2011.3.20 |
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