Bloomers Shock !




                                            絵:こまちさん
 トーン、トーン、トーン・・・

 落ちたボールが転がって行く。
 ボールを目で追っていくと、壁に当たる手前で拾う手が見えた。
 おかしい、さっきまでそこには誰もいなかった。
(誰だ?)
 視線を上げると・・・

「うわあああああああああ!」

 視線の先には血まみれの少年が立っていた・・・。


 * * *


 夏休みも終わりに近い8月末、SPR日本支部は調査のため山奥にあるとある高校の体育館に来ていた。体育館でバスケットをしていると血まみれの幽霊が出るので、成仏させて上げて欲しいという依頼だった。
 今回はナル、ジーン、麻衣、リン、安原の5人だけで調査現場に向かった。
 山にある体育館はひんやりとして涼しく、生徒のいない体育館はガランとしてどこか寂しい。しかし機材を運び込みカメラを設置すると、途端にドラマかなにかの撮影現場のような雰囲気となる。もちろん主役は幽霊。そしてその脇を固めるは・・・
「ちょっ!麻衣短パンじゃないのッ!?」
「寒いもん」
「麻衣の短パン生足を期待してたのにッ!ガッカリだよ!!」
「ジーン、煩い」
 SPRの所長、専属霊媒、専属お茶汲み娘の三人、ナルとジーンと麻衣だった。三人は高校から借りた校名が入った体操着に着替えていた。ナルとジーンは上下で体操着、麻衣は体操着の上に上下のジャージを着用し、長めの頭髪は左右に分けて結んでいた。お陰で童顔が更に幼く見えて、今年で二十歳を過ぎたようには全く見えない。本当の高校生のようだ。
 今回三人が着替えてるのは、生徒がバスケットをしていれば現れるという幽霊を呼びだすためだ。
 事前調査で学校を下見してきたジーンと安原の報告によれば『一緒にバスケットすれば成仏するよ』とのことだった。
「一緒にバスケットするだけでいいの?」
「うん、多分それで成仏する。体育館に出てる子は本当にバスケットが好きな子なんだね。死んでしまってもうバスケット出来ないのがすごく辛いんだ。楽しそうにバスケットしてるのが羨ましくて、仲間に入れて欲しくて出てきただけなんだよ」
「そうなんだ・・・」
 ジーンの霊視結果に麻衣がしょんぼりと項垂れた。見ず知らずの他人に同情するのは彼女の長所であり時に短所でもある。麻衣とは対象的なのがナルだ。ナルは無感動な声で安原にジーンの霊視の裏付け情報を求めた。
「安原さん、目撃証言はどうでしたか?」
「はい。バレーなど他の競技ではなく、バスケット限定で現れたそうです。目撃者は夏休み前に亡くなった斉藤一志くんだったと主張する方が複数名いました。彼はバスケット部員で、練習に向かう途中に交通事故で亡くなったそうです」
「僕も写真を見て確認した。斉藤一志くんで間違いないね」
「そう」
 ジーンが霊視し、その裏付けも取れた。これは完全に当たりな調査だ。しかも体育館という限定された空間。上手く行けばハッキリとした心霊現象から浄化する過程までしっかりと記録が取れそうだ。ナルは素っ気ない返事で全く顔にはでないが内心では密かにウキウキ(死語)していた。
(あー・・・嬉しそう)
(顔に出ないけど心でニンマリしてるね)
(所長嬉しそうですねぇ)
 無表情だが兄&恋人&部下にはバレバレだった。
 そして調査の当日、ジーンの進言通りバスケットをして幽霊を呼出し、彼の願いを叶えることにした。

「バスケットは普通ジャージでやらないでしょ!ちゃんと短パンになろうよ!」
「ヤダ。風邪ひいちゃうよ」
「この学校の高校生に見えればいいんだ。ジャージも高校指定のものであれば問題ない。さっさと始めるぞ」
「はーい!」
「はーい・・・」
 ジーンはまだブツブツ言っているが、不機嫌なナルによってまるっと無視された。
当初はーンと麻衣、そして安原さんがバスケットをして幽霊を出現させるはずだったが、直前で安原さんが足を痛めてしまった。さすがにリンに体操着を着せてを高校生の代わりにするには無理があるので、不承不承ナルが担当することになった。雑事は弟と部下に任せ、自分は心行くまでデータを取るつもりだったのに、あてが外れて不機嫌なのである。要はただの八つ当たりだ。

 麻衣はバスケットボールを受け取りターン、ターンとゆっくりドリブルをし始めた。
 「二人でじゃれてろ」とナルの 雑な指示のもと、二人は1対1でボールの奪い合いをすることにした。ナルはゴール下で2人+周囲を監視中だ。
「麻衣二つ結び可愛いね~、中学生でも通りそう」
「どーせ童顔ですよ!」
「可愛いからいいんじゃない?」
「嬉しくないッ」
 ぷくっと頬を膨らませた麻衣は急にダッシュしてジーンの横をすり抜けようとする。
「甘いよ~」
 ジーンはさっと手を伸ばして妨害する。155㎝と180㎝じゃあリーチが違う。簡単に進路を妨害されてしまう。そのまま少し手を伸ばせば簡単にボールを奪えそうだが、麻衣の小さな体を張ってガードすると的が小さくて手が伸ばしにくい。麻衣はその手をすり抜けてボールを死守した。
「なかなかすばしっこいね」
「伊達にちっこくありません・・・よっっと」
「アッ」
 麻衣はジーンの足の間にボールをバウンドさせ、脇をすり抜けて再びボールを手にした。
「へっへーんだ!」
 麻衣は軽やかにドリブルしてジーンを引き離した!
「あああ!可愛いつむじに気を取られた!」
 ・・・その悔しがり方もどうかと思う。
「一点せーんしゅ!」
 麻衣はシュート体勢に入り、バネを生かしたフォームでボールを放った。ボールは奇麗な放物線を描きゴールネットに入るかと思いきや・・・
 パシッ!
 ゴール下にいたナルによって阻まれてしまった。
「ちょッ!ナルは形だけじゃないの!!」
「何のために僕も着替えたと思っている」
「私を苛めるため!?」
「さあ?」
「否定しないよこの人!」
 キーキー怒る麻衣を余所に、ナルは弾いたボールを悠々とジーンに戻した。
「麻衣、こっちこっち~」
 ジーンがゆっくりドリブルしながら反対ゴールに向かう。負けず嫌いの麻衣は慌てて戻り、ジーンに追いついて阻止しようとする。麻衣が手を出してボールを弾こうとするが、長いリーチに阻まれて手が届かない。攻撃に回ると小柄な麻衣は明らかに不利だった。
「うううう、せめて綾子くらい背があれば・・・」
「僕は今のサイズで満足だけど?」
「嬉しくない!」
「あはははは」
 ジーンは笑いながらくるりと回って麻衣を出しぬいた。そして誰もガードしてないゴールへ叩きこむ!長身を活かしたダンクシュートは無駄に恰好良い。女性のギャラリーがいたら黄色い声が上がっていただろう。しかし見慣れた麻衣は見惚れるより悔しがる方が先だった。「くーやーしーいー!」と地団駄を踏んで唸っている。
「一点先取~!」
 ゴール下でニコニコ笑う顔が憎らしい。「はい、次は麻衣からどうぞ♪」とジーンが投げたボールを受け取るが、二人相手に勝てるとは到底思えない。
「二対一じゃ私に不利過ぎる!!」
 麻衣は脹れっ面のまま二人に抗議する。当然の要求だろう。

「じゃあ二対二でやろうか」

突然、ジーンが言い出した。
「へ?」二対二ってことはリンさんにやらせるつもり?と思いきや
「君もやる?」
 ジーンは麻衣の後ろ、誰もいない筈の壁に向かって話しかけた。
 途端に、ヒヤリとした空気が背後から流れてくる。慌てて振り返ると、誰もいなかった空間にユニフォーム姿の誰かが立っていた。
「・・・・・・・・・ッ」
 麻衣は、ごくり、と唾を飲み込んだ。
 壁際に立つ誰かは頭と首からおびたたしい量の血を流していた。斉藤くんの死因は脳挫傷と失血死。頭を酷く打ちつけたあと頸動脈を損傷したらしい。ユニフォームも血でぐっしょりと濡れ、手の先からも血が滴り落ちていた。顔も血で濡れて表情がよく見えないが、写真で見た斉藤一志くんに間違いないようだ。
「・・・斉藤くん?」
 麻衣が恐る恐る聞くと、彼はこくり、とゆっくり頷いた。
 だらだら血が流れてるし、ところどころ透明だし、ひんやりとした空気が彼から流れている。間違いなく幽霊だ。でも嫌な感じはしない。
 麻衣は一瞬で腹を括った。
「パス!」
 突然、麻衣は斉藤くんめがけて思いっきりボールを投げた。ボールはすり抜けて壁に当たらず、パシッと音を立てて斉藤くんの手の中に収まる。表情の無かった顔が、ボールを手にした瞬間、少し綻んだように見えた。
「お願いがあるの。あの意地悪双子から一点取るの手伝って!」
 麻衣はビシィ!とナルとジーンを指さして言い放った。
「バスケット部のエース候補と組めば鬼に金棒よ!二人であの双子をぎゃふんと言わせましょ!」
 握りこぶしを作って力説する麻衣に押されたのか、それともバスケットが出来ればいいのか、斉藤くんはこくりと頷いた。
 対して面白くないのは『意地悪』で一括りにされた双子だ。
「意地悪双子ねぇ…」
「随分な言われようだな」
 二人はチラリと互いの顔を見合わせて、ニヤリと、にっこりと不敵に微笑んだ。
「売られた喧嘩は喜んで買ってやろう」
「売られた喧嘩は喜んで買ってあげる」
 双子VS麻衣&斉藤(幽霊)の世にも珍しい対決が始まった!

 * * * 

「面白い展開になりましたねぇ。所長はこういう展開を予想して二対一にしてたんでしょうか?」
「いえ、ただの偶然かと。二人とも谷山さんを構いたかっただけでしょう」
「そうですよね。その結果、谷山さんを怒らせて霊側に行かれてしまったと」
「ええ、最初の予定では霊を呼び出した後にジーンが霊とタッグを組むか、1on1をするつもりだと言ってました。谷山さんの申し出は予定外でしょう。にしても、彼女は何の警戒もしてませんね。無鉄砲というか無謀というか・・・」
 麻衣の野生の勘で大丈夫と判断したのだろうが、霊は変質しやすいので油断はならない。だからジーンに任せたほうがいいと思うのだが彼女は平気で霊と接する。 リンは心配げに麻衣を見つめた。
「なんのなんの、あれでこそ我らの谷山さんですよ」
 呑気な感想を述べる安原の手には家庭用のデジカメが握られていた。
「・・・安原さん。そのカメラは?」
「デイヴィス兄弟と谷山さんが仲良くバスケットする姿を見せたら、ご両親と上司が大変喜ぶと思いませんか?」
「・・・そうですね」
 寡黙なメカニックは深くは突っ込まず、データを取ることに集中する。
 カメラの前では幽霊とタッグを組んだ変則コンビと双子の世にも珍しいプレイが繰り広げられていた。

 * * *

「ナル邪魔!」
「邪魔してるんだから当たり前だ」
 麻衣がドリブルでゴール近くまで行くがナルがびったり張り付いてて前に進めない。麻衣がフェイントを仕掛けるがナルには効かない。何度も阻止されている。悩んでいると斉藤くんが駆けよって来てくれるのが見えた。そこで麻衣はナルの手が届かないほどグッと屈みこみ、下から斉藤くんの方向へボールを投げた。斉藤くんが走りこみ、風のようにボールを持って走り抜けた。ゴール近くでシュートを放つ。
 バシッ!
 今度はジーンが走りこみゴールを阻止した。ダンクを決められるほどジャンプ力のあるジーンなら、間に合えば阻止するのは簡単だった。
「惜しい!!」
「今度はこっちの番だよ~♪」
 ジーンがドリブルしながらコートを走る。その横をナルが並走する。
 斉藤くんがジーンに追いつきその行く手を阻止される。
(…ボールは持てるみたいだけどガードも出来るのかな?)
 一級品のミディアムなジーンでも霊とバスケをするのは初体験だ。経験による戸惑いが命取りだった。その一瞬の隙をついてボールを弾かれてしまった。
「しまったッッ!」
「馬鹿、余所見するな」
 ボールを弾かれた途端、ナルが回り込みボールを拾い上げる。悔しいことに麻衣はそのスピードに全く追いつけなかった。でも斉藤くんはすぐ切り替えてナルをマークした。流石にナルは隙が無い。麻衣はジーンに張り付く。
 暫く二人がジリジリと攻防を続けていると
「ジーンッ!」
 ナルが珍しく大きな声でジーンを呼んだ。斉藤くんはその掛け声につられてチラッとジーンの方を見てしまった。そのホンの一瞬の間にナルは斉藤くんを引き離し、一歩前に進む。すぐ斉藤くんは気付き進行方向に手を伸ばし阻止するが、それを読んだかのようにボールをくるりと背後に回し斜め横に向かって投げた。そこへ走りこんできたジーンがボールをさらっていく。
 どちらもあっという間の出来事で麻衣は呆然としてしまう。
 声をかけたのがフェイクで、裏ではホットラインでジーンを呼んでたのだろうか?そうでないと即席であんな連携プレイは出来っこない。
「~~~無駄に器用で運動神経良いんだから!あとホットライン禁止!!」
 置いてかれた麻衣は怒鳴りながら駆け寄るが、コンパスの差でジーンに追いつけるはずも無い。あっという間にゴール体制に入りシュートを放たれてしまった。

 ガツッ!

 斉藤くんも間に合わず点が取られると思いきや、運の良いことに(?)ボールがゴール枠に当たり枠外に落ちてしまった。
「あああああ~失敗!」
「間抜け」
「ラッキー!今度はこっちの番よ!行くよ斉藤くん!」
 麻衣はボールを拾いあげて斉藤くんに声をかけた。斉藤くんも今度はしっかりと頷いた。いつの間にかその顔の血が消えて、表情がハッキリと見えた。出し抜かれて悔しい、でも楽しんでる、そんな顔だった。 
 
 * * *

「斉藤くんの傷が治ってるように見えませんか?」
「ええ、明らかに血痕が減ってます。カメラにもハッキリ映ってます。…これはナルが喜びますね」
「それは良かった。あちらも楽しそうでし、今回はホント当たりですね」
 最初は半透明で存在感の薄かった斉藤くんは、ところどころ透明で明らかに人ではないのだけれど、攻防を重ねるごとにハッキリと見えるようになっていた。彼の周囲が明るく見える気がする。浄化が近いのだろう。どちらかが点を入れれば決着がつくはずだ。
 変則的な2on2は何度目かの攻防を続けていた。激しい動きに三人は汗をかきはじめていた。

 * * *

「ちょっとタイム!」
 ボールを抱えたまま、麻衣が三人に宣言した。
 コンパスが圧倒的に不利な麻衣は三人のなかで最も運動量が多い。ぜーぜーと肩で息をしている。
「休憩?」
「ううん、ちょっと待ってて」
 そう言って麻衣は体育館の隅に行き、そこで上に来ていた上のジャージを脱いだ。
「動いたら暑くってさ~」
 そう言いながら、次は下のジャージを脱いだ。上下のジャージを脱いでバサリと置く。
「あーさっぱりした!お待たせ!続きやるよ!」
 麻衣は半そで・ブルマの夏モノ体操着姿でコートに戻ってきた。

「「・・・・・・・・・!?ッ」」

 麻衣のブルマ姿を見たナルとジーンは絶句した。米国&英国育ちの彼らにとって日本の体操着=ブルマは初めて見るものだった。
(これは下着姿とどう違うのだ?)
 黒くて中身は見えないが、ゴムで足の根元に食い込んでいる。少し動いたら中の下着が見えてしまいそうだ。麻衣はすらりと伸びた足を根元から惜しげもなく晒し、黒いブルマとの対比で白い肌がさらに白く見えて逆に卑猥に見える。
(これを制服として着ることを強要するのはセクハラにあたるのではないだろうか?)
 ナルは”ブルマ”の破壊力を前にどうでも良いことをツラツラと考えてしまった。仕事中にこのような思考をするのは珍しい。
 隣のジーンが顔を赤くして「うわー」とか「どどどどうしよう」と手足をバタバタさせて挙動不審だ。すぐ「煩い!」と突っ込まない時点でナルも動揺しているのを自覚した。

「今度は私達からだよね。行くよ!」
 麻衣は双子の動揺など気付かずにドリブルをしながらコート中央に上がってきた。
 中央に上がってきた麻衣にジーンがつく。
「麻衣!その恰好反則!!」
「何言ってんの?ジャージ脱いだだけじゃん」
「それが反則だっての!」
「さっきは体操着になれってうるさかったのになんなのさ」
「それほとんどパンツじゃん!」
「ブルマのこと?」
「そう!」
 麻衣の侵攻を阻止というよりその恰好に文句(?)が言いたかったらしい、ジーンの妨害は形だけだった。
(なんだかよくわかんないけどブルマ姿に動揺してる?なら・・・)
 麻衣はドリブルを止めてボールを抱え込みクルリと後ろを向いた。すると後ろで「うぐっ」とかくぐもった声が聞こえた。麻衣は余裕で後ろにまわってくれた斉藤くんにボールをパスした。後ろを見るとジーンが蹲っていた。
(なんでこんなにチョロいの・・・?)
 ブルマ効果の大きさに首を傾げた麻衣だった。

 斉藤くんはゴール近くまで近づいたがナルの妨害にあっていた。慌ててフォローに回ったけれどなかなかパスが出せない状況。ナルは勝敗には拘って無いと思うけど、自分が抜かれるのは嫌らしい。まじめに妨害しててスキがない。
(ナルはジーンと違ってブルマに引っかかってくれないだろうしなぁ)
 二人の周囲でうろうろしてチャンスを待っていると・・・
 パシンッ!突然ボールが来た。
 斉藤くんはナルにフェイントをかけジャンプしながら麻衣に向けてパスを送った。ナルは斉藤くんより背が低い。数センチ足りないところでパスが抜けたのだ。
「え、え、え、え・・・」
 突然パスが来てナルが自分に向かって突進してきた。抜かれて不機嫌顔のナルは正直怖い。動揺して動きが止まってしまった。

『谷山さん!シュート!』

 突然、初めて聞く声に呼ばれた。何故だかしらないけど斉藤くんだと確信した。ハッとして斉藤くんを見ると彼はゴール下に走っている。
 すぐ傍までナルが迫っている。自分ではナルからボールを守りきれない。でもシュートするには距離がありすぎる。斉藤くんにパスしたいが進行方向ナルがいて無理だ。シュートするしかなかった。
(女は度胸!)
 一か八かでシュート体勢に入りボールを放つ!

 ガツンっ

 案の定ゴール枠にぶつかってしまった。
 しかし斉藤くんがリバウンドしたボールを片手で掴み、上から叩きこんだ!
 ザンッ・・・!
 見事なアシストダンクが決まった。

「いやったー!」
「・・・・・・・・」
「あーあ・・・」
 麻衣は歓喜し、ナルとジーンは悔しげなため息を零した。
 満面の笑顔で麻衣が斉藤くんに駆け寄り、両手を広げて抱きつこうとすると・・・

『ありがとう・・・』

 斉藤くんが微笑んで、・・・消えた。
 麻衣が広げた手は宙を掴み、斉藤くんが持ってたボールが落ちてぽーんぽーんと床を転がった・・・。
「あ・・・」
 麻衣は呆然と自分の手と、ボールが転がるのを見つめた。
 斉藤くんが居た場所にキラキラとした光の粒子が見える。ホコリが光に反射したのとは違う。このキラキラは純粋な光だった。何度も見た事がある。
「浄化したようだな」
「うん、ばっちりと」
 いつの間にか後ろにナルとジーンが立っていた。
 このキラキラは浄化の光。斉藤くんはちゃんと旅立てたんだ。束の間のチームメイトの別れを惜しんで、一粒だけ涙が零れた。
 ジーンが後ろからギューっとしてくれて、ナルがぐしゃぐしゃと頭を撫でてくれた。

「撤収するぞ」

「「うん」」

 夏の最後の調査は、こうして終了した。




 * * * オマケ * * *


「・・・なんか二人とも機嫌悪くない?」
 帰りの車の中、ナルはむっつりと、ジーンは脹れっ面をしていた。
「仮にも恋人の女性に『意地悪』と非難され、他の男と一緒になって敵対され、尚且つ目の前で情熱的に抱擁しようというところをを見せつけられたら当然だと思いますが?」
「えええ!、でもほら、チームメイトとの喜びのハグはセーフでしょ!未遂だったしさ!」
 麻衣に敵対されたことに加え、負けず嫌いのナルは斉藤くんに抜かれて尚且つ麻衣が斉藤くんに抱き付こうとしたのが気に食わないらしい。半分嫉妬、半分八つ当たりだ。
「僕は仕事中に逆セクハラ受けて無用な我慢を強いられた・・・」
「や、言いがかりだし、そこは我慢するだろ、人として」
 逆セクハラとは心外だ。ブルマは標準的な体操着であってあれがセクハラと言われたら日本の学生全部がセクハラ犯になってしまう。しかも勝手に滾ってそれを我慢するのは当たり前なので自分に言われる筋合いじゃない。半分拗ねで、半分以上言いがかりだ。
「帰ったら覚えておけ」
「帰ったら覚えといて」
「えええええええ~~~!!!」
 後部座席で叫ぶ調査員が一人いましたとさ。


(終わっとけ)


いつものごとくこまがブルマ姿でだぶだぶジャージの麻衣ちゃんを描いてくれた絵に駄文をつけてみましたー。いつもサンキュ!
なんとか夏が終わる前にアップできて良かった!無駄に長くなり遅くなりました。
海外の体操着ってブルマじゃないんだよね。海外育ちの二人はブルマの破壊力に打ち拉がれるがいい!!
2011.9.22(秋分の日前は夏だと言い張り隊)
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