Pokey game !



「ポッキーゲームしよう!!」

 11月11日はポッキーの日だとかでジーンが麻衣にゲームを提案した。引け腰の麻衣を言いくるめてポッキーとか言うチョコレートコーティングされた棒状のスナックを麻衣に銜えさせ、その端からジーンがポリポリと音を立てながら食べ始めた。
(懲りないヤツだ・・・)
 それを横から見ながらナルは呆れた。
 このゲームは口と口が近づくことで相手の反応を楽しむものだろう。交際を始める前か交際期間の短い男女がすれば初々しい反応を楽しめるのだろうが、既に肉体関係まで持ってる相手として何が楽しいのだか理解に苦しむ。ゲーム後の麻衣の騒ぐ様子が目に浮かび、ナルは本の影で小さく嘆息した。
『えー、楽しいよ?』
 ナルの嘆息に気付いたジーンがホットラインで話しかけてきた。
『どこがだ』
 キスなど日常茶飯事なのにわざわざキスを求めるためにゲームを持ちかける意味が分からない。
『ナルは想像力が足らないよ。まぁ見てみなよ』
 ジーンが自分が見てる映像をナルに送りつけてきた。基本お互いの意識をスキャンすることは多いが送りつけることは少ない。メールのように開かなければ見なくてすむが、見ないと煩いので渋々と見てやる。
 視界を切り替えてジーンの視界に合わせると、不機嫌そうに眉を顰めた麻衣が視えた。しかしジーンが食べ進めるにつれ、頬は赤く染まり怒りより羞恥に染まった表情を見せ始めた。困ったように上目遣いをして瞳が揺れている。
『ね?段々と距離を詰める感じがイイでしょ?』
『・・・・・・・・・・・・』
 確かに新鮮な感じがする。今でこそキスなど当たり前になったが、最初の頃は麻衣も自分達も多少緊張しながらキスしていた。距離の詰め方がよくわかっていなかったことと、この行為が許されるのかどうかお互い探りあっていたからだ。
 そんな過去を思い出しているうちにジーンが菓子を食べ終えて麻衣に到達した。麻衣はゲームに積極的ではなかったが引かなかったので当然キスする羽目になる。
「~~ッモノ食べながらのキスは嫌だって言ってるじゃん」
「ポッキーゲームの醍醐味なんだから許してよ」
「それ違うと思う・・・・・・」
 ジーンは口を尖らした麻衣の唇にリップ音を立てて触れては離れた。ジーンはご機嫌で麻衣の腰に腕を絡ませている。麻衣は唇を尖らせてぽかんとジーンを叩いたがされるがままだ。ジーンには言っても無駄だとよくわかっているので諦めているのだ。
(・・・・・・・・・・・・)
 対抗心を抱くのは馬鹿馬鹿しいとナルは分かっている。だが馬鹿馬鹿しい関係なのだからたまには馬鹿馬鹿しいことをするのも良いと思っている。
 ナルはポッキーという菓子を一本取出し、麻衣に向かって挑戦的な視線を送った。
「麻衣、僕に勝ったら先日のペナルティをチャラにしてやってもいいぞ」
「ホント!やるやる!!」
 事務所で盛大に居眠りをしてしまい(調査時は大目に見てもらえるが事務所は処罰対象である)、給料カットを言い渡されていた麻衣は乗り気でナルの前に座った。
 ナルは煙草のように柄の部分を銜えて麻衣に突き出す。チョコレートの部分を麻衣はカプリと銜えた。
 麻衣はポリポリと食べ進めるがナルは全く動かない。
(あれれ?)
 ナルはポッキーを口に銜えたまま動かない。長い睫毛を僅かに伏せて麻衣を見つめていた。口角が若干上がり面白がってるのがわかる。麻衣は悔しさに眉を顰めたが次第に近づいてくるナルの顔に焦りより羞恥心がこみ上げて来る。
 二人の無駄に奇麗な顔など慣れている。でもキスするときはいつも目を瞑るし、こんな風に自分から近づいていくことはない。恥ずかしさに速度を落として食べても近づいてきてしまう。
 肌の肌理の細かさとか睫毛の長さだとか瞳の煌めきだとかに今更ながらに心臓がバクバクと踊り出す。あと3センチというところではナルの体温すら感じて顔が真っ赤になる。恥ずかしくて息も出来ない。
(うぅぅ・・・恥ずかしいよぉッ!)
 麻衣は眼を瞑って食べ進み、とうとうナルの唇まで到達してしまった。ナルは銜えたまま未だ動かない。互いに端を銜えたまま唇を密着させて動かない。麻衣は早く離れたいが離すと負けになるような気がして動けなかった。
(こんな場合どうするの?)
 膠着状態を崩したのはナルだった。
 ナルは麻衣の頤を捕えて自分に引き寄せた。
「んぅ!?」
 重なるだけだった唇を覆うように塞ぎ、歯列をこじ開けてポッキーの欠片を麻衣の口腔に押し込んだ。交わった舌はスナックの残骸でザラリとした感触を残した。
「引き分けだな」
 ナルはうっそりと笑って宣言し、触れるだけのキスをした。一部始終をナル視線で見てたジーンも満足気だ。
「負けたわけじゃないのに何故かすーーーっごく悔しいんだけど!」
 一人だけ不満足な麻衣はふくれっつらで抗議した。

「気のせいじゃない?」
「気のせいだ」

 双子は宥めるように左右から麻衣の頬にキスをした。

 麻衣に初めてキスをした感触と、麻衣から初めてキスをされた感触を味わった双子だった。



(終わっとけ)



公私混同はしない博士はもちろん減給は取り消しません(鬼)

2012.11.26
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