Errand & Reward!





                                            絵:こまちさん
 珍しく、本当に珍しくナルは近所のスーパーマーケットに来ていた。
 自動ドアをくぐり中に入った途端、周囲のおばちゃんお姉さんお穣ちゃんが一斉に振り向き、顔を赤らめたりそわそわしたり溜息をついた。スーパーに黒髪に黒ずくめの麗人は浮きまくっているが、そこは華麗にスル―して目的の場所に向かう。大根、レタス、ニンジンが並ぶ生鮮食品を通り過ぎ、キムチや豆腐が置かれた目的の棚に到着した。そして目の前にある赤いラッピングのプラスチックパッケージを三段重ねて纏めるようにラッピングされたある品を掴んだ。
 そのある品とは『納豆』だ。震災の影響で品薄だったあの納豆だった。
 ナルはこれを買うためだけにスーパーに寄った。事務所から帰る際に、麻衣から『スーパーで納豆が入荷してたの。お一人様一個限りだったから帰り際に買ってきて!お願い!』とメールが来た。麻衣が最近納豆が買えないとぶーぶー文句を言ってたのは知っている。自分には興味がないが、納豆好きな麻衣には堪えるらしく、『・・・自分ちで作ろうかな』とまで漏らしてたくらいだから、余程納豆が食べたいようだ。
 なので、珍しく、本当に珍しく、麻衣のお願いを叶えてやるために納豆を買って帰ることにした。
 納豆が置いてある棚には『お一人様一個限り!』と書かれている。まだ午後を少し過ぎた時間なのに、棚にはあと数個しか残っていなかった。品薄なのは本当らしい。
 しかし海外ではこんな表記があっても守る奴はいない。なのでまず書かない。それにこうして別々に買えば結果は一緒だ。家族の多さ=必要消費量の多さとは限らないだろう。馬鹿らしい。こんなところに日本らしさを感じるのは、自分が日本人じゃない証拠だろうか。
(それでも買って帰るのだから我ながら甘い)
 ナルは小さくため息をついて棚から一つだけ取り、そのままレジに向かおうとしたら・・

「ちょっと兄ちゃん!一人一個だよ!」

 何故か売り場の恰幅の良い初老の女性から注意を受けてしまった。
「?一つしか取ってないが」
 ナルの手には小粒納豆が一パックあるだけだ。二つ以上は取ってないから注意を受けるいわれは無い。
「いーや!二回目だろアンタ!バレないと思ったら大間違いだよ!さっき取ってたの見てたんだからね!」
「それは僕ではない」
「嘘ついちゃいけないよ。アンタ程の男前は見間違えようがないから!ルールは守らなきゃ駄目だよ」
 それはジーンだろう。メールは二人に送られていた。一足違いで買って帰ったのかもしれない。しかし双子の兄だと説明してもこの女性が信じるかどうか疑問だ。第一、非常にウソ臭い言い訳だ。信じる者の方が少ないだろう。
 全く慣れないことはするもんじゃない。誤解されたままなのは不愉快だがもう面倒だから買わずに帰ろうかと思っていると・・・

「ナルじゃん、珍しい」

 売り場の向こうから呑気な声がかけられた。ジーンだ。
 肉や魚を背景に手に買い物カゴをぶら下げてニコニコと笑う姿は妙に馴染んでいる。同じ顔なのに、ナルと違ってこの庶民的なスーパーマーケットによく馴染んでいるのは何故だろうか。
 ジーンは「ナルも納豆買いに来たの?」と笑いながら近寄ってきた。珍しい事に、ジーンは黒いシャツを着ていた。自分と同じ黒一色ではないが、これでは目の前の女性が間違えるのも無理は無い。
 女性は「エエエ!?」と驚きつつ自分とジーンを見比べてる。周囲の人間も驚いて自分たちを見ている。二人で歩くとよく見られる現象だ。
「どしたの?」
「お前と間違われてルール違反だと指摘された」
「ああ、お一人様一個のルールね」
 ジーンは自分と僕の手にある納豆パックを見て納得したようだ。
「おばさん、こういう訳だからいいよね?」
 にっこりと、老若男女を陥落する笑みで言われると、売り場の女性はほんのり顔を赤らめて何度も頷いた。
「あれまぁよく似た兄ちゃん達だね。双子かい?」
「うん、そう」
「ごめんねぇ、さっき見たのはこっちの兄ちゃんだったよ」
 女性はそう言ってナルに謝った。
「別にいい」
「これだけ似てれば無理無いよ。気にしないで!」
 それでも大勢の前で叱りつけたのを悪いと思って何度も謝られてしまう。
「ごめんねぇ・・・、あ、これオマケしとくから。気を悪くしないでまた来ておくれ」
 売り場の責任者でもあるらしい彼女は、次回来たら値引きされる店のサービス券をくれた。倹約家の麻衣は喜ぶだろう。
「ありがとうございます」
 ジーンは満面の笑みで受け取り、ナルは無表情のままスーパーを後にした。

「儲けたね♪」
「・・・二度とゴメンだ」

 そんな些細な珍しい一幕があった休日の午後でした。 


★★オマケ★★


「わーい♪ナル!ジーン!ありがとう!!」

 麻衣は納豆を買って帰ってきた二人を満面の笑み&ハグで迎えた。
 しかもサービス券を貰った話をすると更に喜び「エライ!」と言ってキスのご褒美までついた。不機嫌だった博士のご機嫌が治ったのは言うまでも無い。


(終わっとけ)


最初は「お買い物」絵につけてたんだけど、絵とあってないねーと言ったら「これお買い物というよりおつかいだよね」って書き下ろしてくれたよ!ありがとうこまちゃん!
博士をお買い物に引っ張るなんてお一人様一個縛りの時くらいかなと思ったらこんなんできた。博士はスーパーじゃ浮くが、ジーンは馴染みそうだよね。どうも私は二人の違いを対比させるような話を書くのが好きらしい。
2011.11.2
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