ラブレーザー |
【TOP・TEN】という90年代を代表する音楽番組があった。 男女の司会者が毎週のアルバム売上&有線リクエスト&ハガキリクエストを集計して上位10名のアーティストをランキング形式で紹介する。木曜のゴールデンタイムに放送される生放送で、大変人気が高く最高視聴率が40%を超える国民的音楽番組だ。 ナルとジーンと麻衣はTOP・TENの控室にて呼び出されるのを待っていた。ランキング下位の者から呼び出されるので三人が呼び出されるのは後の方だと分かっている。ただし、一番最後かどうかまでは本人達も知らされていない。 「今回も一位かな?」 「どうだろう。3回連続してるからそろそろ落ちててもおかしくないよね」 「一位だといいなあ」 「僕もー」 麻衣とジーンがのほほんと会話をしているの横でナルは黙々と分厚い本を読んでいた。上位ランキング常連の三人なので全く緊張の色は無い。そうこうしてるうちに控室にADさんが呼出され、促されるまま舞台袖に立つ。そして3・2・1・・・GO!とキューを出されてカーテンの中へ踏み出した。 すると・・・ 「今週のTOP・TEN第一位は・・・『O.N.E』の[Love Raser]です!」 司会者が高らかに三人を呼び出し、光る紙吹雪が頭上から降り注いだ! 「わぁ!!!!」 麻衣は歓声を上げて舞落ちる紙吹雪を受け止めた。見上げると金銀の紙吹雪がライトを照らしキラキラと光っている。一位に選ばれると登場ゾーンに金銀の紙吹雪が落ちるのが常となっている。麻衣はこのキラキラとした紙吹雪がお気に入りだった。ジーンも好きでニコニコと観客に向かって手を振っている。「ユウちゃーーん!」コールが煩い。ナルは紙吹雪が嫌いで鬱陶しげに払っている。こんな仏頂面でも観客から「カズ様ー!」と声援が飛ぶのだからわからない。自分への「まーくーん!」コールもささやかながらあるので手を振りながら前に進んだ。 司会者から一位のお祝いを言われ、当りさわりのない挨拶を交わす。その後でリクエスト葉書から選ばれた質問コーナーの質問を受ける。それが中々に厄介で時にすっごく困る時がる。 そして本日の質問が・・・ 「さて本日の質問葉書コーナーは東京N区在住の『恋人ユちゃん愛人カズ本命まーくんさん』からの質問です。長いペンネームですね。えー、内容は『明日の5月23日は【キスの日】ですが誰とキスしたいですか?』ですって!」 「いや~タイムリーな質問ですねぇ。さあ答えてもらいましょう!」 女性司会者が読み上げた内容をうけて男性司会者が三人に向かってマイクを突き出した。 「え、ええっ!!」 突然マイクを向けられて【キスしたい相手は?】なんて聞かれて奥手な麻衣は大いにうろたえた。白い肌が一気に赤く染まる。慌てる麻衣を余所に、ナルとジーンはするりと答えを口にした。 「両親に」 「わたしもー、感謝のキスを贈りたいな」 ナルは無表情に、ジーンはニコニコと答えた。異国人のような風情の二人が言うととても自然な答えに聞こえた。 「あらら、見事にかわされてしまいましたね~、まーくんは?誰か意中の子はいないの??」 標的を変えた司会者は麻衣にマイクを突き出した。麻衣は「めっそうもない!」とぶんぶんと首を振って否定した。 「え~ホントにぃ?」 ニヤニヤ顔で詰め寄る司会者から救うようにナルとジーンが両脇から麻衣を抱え込んだ。 「まーくんたら冷たいのね。私達にキスしていって言ってくれないの?」 「遠慮するな」 しな垂れかかるジーンと高飛車なナルは文句なく美人だ。男なら一度は口付けたいと願うことだろう。だが自分は本当は女なので全力で遠慮したい! 「二人のファンに殺されるから!!!」 慌てて答えて「離せ~!」って二人の腕から脱出しようと試みる。が、本当は男の二人はとても力が強い。抜け出せずにぜーは―息を乱すのみ。 そんな私の様子を司会者は楽しそうに眺め、客席からは「可愛い~」と「羨ましい~」のコールが上がる。3人姉弟という設定だからまだこれで済んでるけど、他人だとバレたら「羨ましい」が「可愛い」を凌駕して「殺す!」コールまで上がるだろう。ああバレたら命が無い。 私は女なんだから女なんか興味ないっての!といっても二人は女装した絶世の美形男子だけどね!喜んでいいのか悪いのか、あーややこしい・・・ 「ホーントいつも仲が良いですね。その息の合った三人に歌ってもらいましょう!準備お願いしまーす」 もがいていたら、笑いながら司会さんが質問を切り上げて歌うよう促された。引き際を弁えてる人で助かる。しつこい人だともっと突っ込まれた質問をされるのだ。 三人でステージ中央に向かいながら、麻衣は「ありがとね」と二人に小声で礼を言う。奥手な麻衣を二人が助け舟を出してくれたのだと分かっている。ナルは軽く頷き、ジーンはパチンとウィンクした。麻衣はほわりと笑い歌いだしのポーズを取る。 ポーズを取ると「3週連続第一位[Love Raser]です」と司会さんが曲紹介をしてくれてイントロが流れた。 「「「ストレイト!」」」 人差し指を立てて一斉に歌い出す! この曲は指でレーザー光線の代わりをして色んな方向を指さしながら踊る振り付けだ。 踊るのも歌うのも好きだ。でも一人だったらとてもじゃないがお客さんの前で歌うなんて無理だ。三人だからこそ出来たと思う。 最初、まどかさんから国籍も性別も違う二人と生活を共にするようにと言われた時は心底不安だった。一番は自意識過剰かもしれないが身の安全を心配した。 嫌そうな顔をした私に向かって 「ロリコンじゃない」 「ロリコンじゃないし」 と失礼なことを言いやがった。 でもよくよく話を聞くと、英国人の感覚では私が子供に見えて仕方ないらしい。彼らの倫理観でそういう気が起きないと言われれば逆に安心してまった。 あとは上手くやっていけるかどうかの心配だけどそれは杞憂に終わった。いざ一緒に暮らしてみると案外楽しかった。そりゃ少しは苛立つことがあったけど(主にナル)、日々の歌と踊りのレッスンで怒る気力体力が奪われたし、楽しいと思うことのほうが多かった。 ジーンは優しいし気が合って付き合いやすいけどどっか油断ならない。 ナルは気が難しいし皮肉屋で喧しくて気が合わないけれど案外単純で楽。 二人からは「不思議と三人一緒にいて違和感がない」と言われる私。 国籍も性別も性格も違う三人だけど本当の兄妹のような錯覚さえ起きる。身内がいない私にとっては忙しいけど楽しい毎日だ。一人ぼっちだった私は誰かと一緒に暮らすことにずっと憧れていたから余計にだ。 (この生活がずっと続けばいいのにな・・・) ふとそんなことを願ってしまう。特にこうして三人で息を合わせて歌ってる時はずっとずっと続けばいいなと思ってしまう。 だけど終わりが来ることを知っていた。最初の予定では二年間の活動予定なので、あと一年で終わってしまう・・・。それを思うと泣きたくなるが笑顔で歌い続ける。 曲も終盤で最後のサビにさしかかった。 「「「心を突き刺す・・・」」」 三人で同時に人差し指を高く持ち上げる。最後のフレーズで三人でそれぞれ左右正面に指を突き出してフィニッシュだ。 「「「深紅のLoveビーム!」」 フィニッシュで二人はパッと私から離れて同時に私に向かって指差した! (えッえッえ!!こんなの打ち合わせにあったっけ????) パニくり固まる私に二人は艶やな笑顔(私の目にはめっちゃ企み顔)で抱きついてきて、二人から両頬にキスされた!!!!! 「ぎゃーーー!」と叫ぶ私に、「きゃーーー!」「ギャーーーー!」と観客の歓喜と怒号の二重奏が合わさって会場が揺れたらしい。 * * * 「何なのよアレは!!!」 帰りの車に乗った途端、麻衣は爆発した。控え室じゃ誰が聞いてるかわからないので誰にも聞かれない車まで我慢したのだ。車も自宅もほぼ毎日盗聴されてないか運転手兼ボディーガード兼カメラマンのリンさんがチェックしてくれてるので安全だ。瞬間湯沸かし器だった麻衣も一年以上アイドルやっていればこういう我慢も出来るようになっていた。 人前で、しかもテレビでキスなんかされて恥ずかしかった麻衣は二人に詰め寄った。 麻衣に怒られた双子は不思議そうな顔をしていた。 「何って・・・FANの期待に答えただけだけど?」 「期待って何の期待よ!」 「この間出したグッズの売上げとアンケート結果、そしてFANレターを分析した結果、僕ら個人についているFANも多いが三人共にFANだと言う声が圧倒的に多いことは伝えたな?」 「聞いたけど・・・」 ナルとジーンはブラコンを装い、「恋人?二人の世話で手一杯だ」(カズ談)「恋人なんかいらない、まーくんがいるからいい」(ユウちゃん談)という姿勢を貫いている。特にジーンなんかは「弟さんをどう思ってます?」の質問に「天使」と答えるほど弟馬鹿ぶりを遺憾なく発揮している。単品で活動するよりも三人でじゃれていると皆の視線が温かいかもと感じている。 「彼らは僕らが固まってるほど喜ぶ。両親への感謝のキスよりも弟への親愛のキスの方を喜ぶだろう。反発の声も上がったがアレは本気じゃない。逆に麻衣だからこそ彼らも安心する。自分達のアイドルは弟が大事で他に目を向けてない。まだ恋人はおらず、いつか自分が恋人になれるかもしれないと夢が見られる。麻衣FANも理想の弟を構う姉気分を味わえるのだ」 「そうなの?」 そんな夢なんか見るの?と疑惑の目を向けると二人は揃って頷いた。話を聞いていたマネージャーの安原さんも笑いながら、驚いたことに寡黙なリンさんも運転しながら頷いていた。 「男なんて単純だしね」 「人は信じたいものを信じるからな」 同じ男の癖に二人は辛辣だった。まーアイドルになってからは勘違いした男のFANに散々不愉快な思いを味わされたので無理も無い。 二人に淡々とキスの説明をされると自分が酷く子供っぽい駄々をこねてるようで面白くない。麻衣はぷーっと頬を膨らまして二人に背を向けた。 「たかが頬のキスだろう。そんなに騒ぐことか?」 「そんなに嫌だった・・・?」 二人に不思議そうに、かつ心配そうに聞かれるとちょっと気が咎める。けど二人にとってはただのキスでも自分にとっては大変なことだ。 「・・・私キスされたの初めてなんだもん」 ポツリと言うと二人は「は?」「ホントに?」と驚いた声をあげた。 彼氏いない暦=自分の年齢な麻衣は今までキスはおろかデートすらしたことがなかった(この二人を除いては)。ほっぺに軽くキスされただけでも大変なことなのだ。恥ずかしくて恥ずかしくて思い出すだけで顔が赤くなる。 「うるさいなッ自分でも奥手だってわかってるよ!」 「・・・別に悪いとは言ってない」 「日本人て奥ゆかしいってホントなんだね。むしろ感心した」 「ううう~~~~」 感心されても馬鹿にされてる気分になるのは何故だろうか。僻みに違いないので言わないけど。 唸っていると笑ったジーンに引っ張られて二人の間に座らされた。お決まりの配置で《双子弟サンド》とFANの間では呼ばれている。 「麻衣が僕らとは育った文化が違うってこと忘れてた。ごめんね?」 「・・・今度からは事前に言う」 ジーンに肩組みながら頭を撫でられて、ナルに腰へ腕を回される。二人の体温で温められると何だかどうでも良い気分になってくる。甘やかされてるなぁと思う。 「僕らの感覚じゃ家族にキスするのが普通だから、ついね」 「二人がしてるの見たことないけど?」 「男兄弟では滅多にしない」 「僕はたまにするよ?半分嫌がらせだけど。男兄弟なんてそんなもんだよ」 「そうなんだ」 「うん。でも可愛い妹ならしたいよね」 「嫌じゃないな」 「妹ならいいの?」 「うん」 「ああ」 「妹・・・」 憧れの響きにちょっと喜んでしまった。それが伝わったのだろう、ジーンがニッコリ笑って「キスしていい?」と聞いてきた。これだからジーンは油断ならない。すぐ調子に乗るのだ。 でもお兄ちゃんのキスなら嫌じゃないかな?と一瞬考えた隙にジーンはこめかみにキスをしてきた。文句を言う前にナルからも頬にキスされた。 口紅を落とした唇は乾いていて優しい感触だった。ちょっと照れるけど嫌だとは思わなかった。 「・・・口はヤダからね」 ジーンは「了解」と言って麻衣の頬にキスを、ナルは頷いて目元にキスをした。 こうして二人からのキスに慣らされていく麻衣だった。 |
二年間の間のエピソードの一つです。順番が遅めの話だけど思いついて書いちゃったから仕方ないっす。 2011.6.27 |
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