<ノーベル賞とデイヴィス家> |
★電話 「ナル~、電話だよ。どっかの審査委員会から」 「電話の取り次ぎもまともに出来ないのか」 「早口の英語で聞き取りにくかったの!私てんぷら揚げてる最中だから早く出てよ!」 「(面倒くさそうに)Hello …」 ・・・数分後・・・ 「どこからの電話だった?」 「ノーベル賞審査委員会」 「ふーん、何でそんなとこから電話?SPRへの依頼?」 「いや、ノーベル受賞の連絡」 「へ~おめでとう!ノーベルしょ・・・って・・・はぁ!」ガッチャン! 驚きのあまり麻衣は手にしていたキッチンボールをてんぷら油の中に落してしまった。 「キャーーー!」 「馬鹿ッ!」 (あわやキッチン丸焦☆) ★賞金の行方 「受賞おめでとうございます」 「ああ」 「9800万円の賞金が出るそうですね」 「らしいな」 「使い道はお決まりで?」 「いや、これからだ」 「新しいカメラと分析器のカタログが届いておりましたので置いておきます」 リンが置いていったカタログを見ると、カメラ類が若干多い。確かリンが欲しがってたやつだ。 「・・・・・・おねだりか?」 この後にまどかから霊障に強いスーパーコーティングのパソコン機材のカタログ、行きつけの古本屋から稀少本のカタログが届いたそうな。 ★インタビュアーと博士 「今日はアレックス氏との共同研究で脳神経の研究が認められてノーベル賞を受賞したデイヴィス博士にお越し頂きました。博士、受賞おめでとうございます!」 「ありがとうございます」 「受賞の連絡を受けた時は何をしてらっしゃいましたか?」 「カメラの調整をしているときに妻から連絡を受けました」 「受賞されたご感想は?」 「特にありません」 「は?・・・・・・ああ、驚きで声もでなかったと!」 「まさか」 「で、では、受賞は予想されてたので?」 「いえ、全く」 「何やら受賞しても嬉しくなさそうに聞こえるのですが・・・」 「お陰さまで研究への寄付金が集まりありがたいことです(営業用スマイル)」 極上の笑顔で煙にまかれるインタビュアー。本来の研究とはずれているために特に感動のない博士だった。 ★インタビュアーと麻衣 「受賞おめでとうございます。奥さまの御心境は?」 「いやもう何が何だか・・・とにかく驚きました」 「なるほど(笑)今回の受賞の影に内助の功があったと思われますが、いかがですか?」 「いえいえいえ!そんなこと言ったら鼻で笑われますよ」 「まぁ、なかなか厳しい方なんですね」 「学者馬鹿のワーカホリックなんで(苦笑)。研究のためにしょっちゅう寝食忘れるのが困りものです」 「健康が心配ですね」 「そうなんですよ!皆さんも立ったまま寝てるところを見つけたら『ベッドで寝ろ』と注意して下さいね」 このインタビュー以降周囲がこぞって麻衣化してきてうざい博士だった。 ★お疲れ夫婦 取材攻勢に辟易したデイヴィス夫婦は某高級ホテルに籠城中。そこへぼーさんから電話がかかってきた。 『よー、おめっとさん』 「どうも」 『嬉しくないのか?』 「研究費が増えるのはありがたいが、それ以外は煩わしいだけだ」 『らしーやね~。麻衣はどうしてる?あいつ喜んだだろう』 「最初だけな」 『最初だけ?』 「麻衣への取材も多い。僕のことで根掘り葉掘り聞かれるのが嫌だと憤慨してる」 『・・・・・・お疲れさん』 「どうも」 『麻衣に代われるか?』 「寝ている」 『こんな真昼間なのに?』 「疲れてるんだろう」 『そっか、じゃーまたな』 「ああ」 暇な旦那さまと思わぬところで旅行出来てご機嫌な奥さまは昨夜はすごく仲良くしたらしい。 ★晩餐会準備 「ええええ~晩餐会は私も行かなくちゃいけないの?」 「ああ。夫婦同伴が基本だ」 「授賞式は嬉しいけど晩餐会は行きたくないなぁ・・・・・・でも行かなくちゃ駄目なんだよね?」 「光栄と思え」 「う~、何着ていこう?」 「松崎さんに相談すれば?」 「そうする~」 ・・・数日後・・・ 「見て見て~綾子が着せてくれたの!」 豪勢な着物を着た麻衣が現れた。 「着物?」 「うん!国際的な舞台ならドレスより日本の民族衣装の方が良いわよって、すっごい良い着物を貸してくれたの」 着物の良し悪しはナルには分からないが、白い生地に金銀赤黒紫の花々が刺繍で豪奢に飾られた着物はどんなドレスにも負けないだろう。日本人にしては色素の薄い麻衣によく似合っていた。 「似合う?」 「馬子にも衣装」 「陳腐な褒め言葉だなー」 「・・・・・・結婚式を思い出したな」 「ふへ?」 二人の結婚式は英国の教会式で挙げ、披露パーティでは着物を着た。その時も周囲から褒められナルもまんざらでもなかった。脱がすのは面倒だけれど着物を着た麻衣は淑やかで悪くない。ナルは艶やかに笑んで麻衣のぷくりと膨れた頬にキスを落した。 着物姿の麻衣は会場でもとても評判が良かったそうな。 ★お土産 「皆へのお土産はコレがいいんじゃない?」 麻衣はノーベル賞のメダルを模したチョコレートを指さした。一枚二百円程度らしい。 「好きにしろ」 「はーい!何枚買おうかなぁ~。真砂子に綾子でしょ、リンさんにぼーさんにジョンに安原さんでしょ、タカに千秋先輩でしょ、みちるにあとあと・・・」 麻衣は指折り数えて人数を数えはじめた。 「あとルエラとマーティン、まどかさんに・・・あとジーンの分も」 「最後のは必要ないと思うが?」 「だって報告するのに手ぶらじゃなんだもん」 「報告?」 「ジーンのお墓にナルが凄い賞とったんだよーー!って報告したいじゃん」 「・・・・・・・・・・・・」 そういえば、あの馬鹿は甘いものが好きだったと思い出したナルだった。 ★晩餐会への階段 『お手をどうぞ』 『ありがとう』 晩餐会の入場式ではそれぞれのパートナー以外の相手をエスコートする。ナルはご高齢の貴婦人のエスコートだった。 『ミス、お手をどうぞ』 『あ、ありがとうございます』 前の方でも似たような会話がなされている。相手は麻衣となんとかと言う科学者だ。麻衣の手をしっかりと握り階段を下ろうとしていた。 『そのドレスはとても素敵ですね。日本の民族衣装ですか?』 『はい。日本の民族衣装でキモノと言います』 『ミスにとてもよくお似合いです。東洋の妖精のようだ』 『ありがとうございます。・・・あの・・・』 『何でしょう?』 『私、ミスじゃなくてミセスなんです・・・』 『えッ』 仰け反った某科学者は危うく階段を踏み外すところだったそうな。 (ザマーミロ) と博士が思ったかどうかは不明です。背後にご注意☆ ★晩餐会が終わって 「・・・・・・お腹空いた」 晩餐会のディナーは非常に上品で食いしん坊の麻衣からすると全然足りないらしい。 「一時間に一枚ずつしかお皿来なかったし、美味しいけどメインのキジ肉なんかったの三切れだったんだよ?ちょっと少ないよね」 「僕よりはマシだろう」 ナルはそのメインの肉すら食べれなかった。 「もたなくて代わりにお酒いっぱい飲んじゃった~ふわふわしてイイ気持ち~」 「飲み過ぎだ」 ペチンとナルが麻衣の額を叩く。その手を麻衣が掴んで握りこんだ。 「ナルの手冷たくてきもちイイ~」 ひんやりとしたナルの手を頬に当て麻衣は「うふふふ」と上機嫌だ。猫がじゃれかかるような様子にナルの眉間の皺も緩む。 「ナル、ノーベル賞受賞おめでとう」 見ると、麻衣はナルを見上げて幸せそうに微笑んでた。 「何だ改まって」 「ん~、ナルがメダルを授与されてるの見て実感湧いたの。こんな世界的に凄い賞をナルが貰ったんだなって思うと胸が詰った」 「鈍い奴」 「だってさ、超常現象なんて超マイナーな研究でしょ?人によっては色眼鏡で見られちゃう。そういう時すっごい腹立つ。こんなにナルは頑張ってるのに!ナルが命削るように研究してるの見てから言え!っていつも言いたかった」 「万人に理解される必要もない」 「うん、私もそう思ってた。だからこんな風にナルの頑張りがちゃんと評価されて、世界中に認められる日がくるとは思わなかった。それがすごく、すごく、嬉しいの」 そう言って麻衣は笑った。いつもの太陽のようなあけっぴろげのではなく、幸せを噛みしめたような染みいるような笑みだった。 ナルには麻衣が何をそれほど嬉しいのか理解出来ない。 今回の受賞は歳のわりに早かったが自分の能力ならいずれ取っただろう。欲を言えば本来の研究で受賞したかった。『運が良かった』程度の感想しかない。自分以上に麻衣が喜ぶのは予想してたがこのように幸せそうな顔をするとは予想外だった。 生きている限り、研究だけし続けるには無理がある。様々な雑事をこなさねばならない。仕事など対外的なもののサポートは主にリンがした。同じ研究者であるし、部下でもあるリンは当然だという感覚がある。 健康面など内的なサポートは麻衣がした。それは妻として当然だが、自分が夫としての義務を果たしているとは言い難い自覚があるので、フェアではない気がする。それに感謝をした覚えはない。そういう意味では一番献身的にサポートしたのは麻衣だろう。 その麻衣が『報われた』と喜ぶのなら、価値はそこにあるのかもしれない。 「自分のことでもないくせに」 「何で素直に受け取れないかなー」 ご機嫌な麻衣はナルに何を言われても気にしない。くすくすと笑うだけ。 ナルはひそやかに笑んで麻衣の手を引き、幸せのお裾分けに預かった。 END |
ノーベル賞受賞おめでとうございまーす!で思いついたネタ 2013.2.1 |
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