終わりと始まり05 |
時間になり例の三人がベースにやってきた。 ベースにはナル、リンさんと私が待機している。 教室の前側に椅子を三つ並べ、右からテニス部三年の鈴木さん、陸上部二年の遠藤さん、茶道部二年の真鍋さんの順に着席してもらった 三人は酷く緊張していた。 表情を固くしてこちらをじっと見ているのが鈴木さん。 落ち着かなさげに視線を彷徨わせているのが遠藤さん。 ずっと俯いたままなのが真鍋さん。 三人とも緊張し怯えながらナルが口を開くのを待っている。 痺れを切らして口を開いたのは鈴木さんだった。 「早く用件を言ってくれない?部活があるんだけど」 挑戦的にナルを見つめた。 「そんなにお時間はとらせません」 ナルは冷たく言い放った。 「我々は調査に当たって、幽霊を目撃した人物を探そうとしました。ですが誰かが見たという噂ばかりで、誰も見たと証言する者はいません。そこで誰から聞いたか、噂元を聞き取り調査しました。すると最も多く名前があげられたのが貴方達三名でした」 三人は無言でナルの話を聞いていた。 「うちの調査員がお話を伺ったところ、三人とも誰から聞いたか覚えてないと答えたそうですが、本当ですか?」 「「「・・・・・・・・・」」」 三人は誰も答えなかった。 「本当だとしたら誰から聞いたか覚えていないような曖昧な情報を何名にも伝えたことになる。その理由を伺いたい」 またもや三名とも無言で誰も答えない。 「例えばこれが自分が見たという目撃証言なら分かります。注目を浴びるために嘘の証言をするというのはよくあることです。ですが三人ともそうじゃない。女生徒の霊が出るという噂は嘘で、何か別の目的があるのでは?」 ナルは三人を見つめた。 遠藤さんは目を反らし、真鍋さんは更に深く俯いた。 「嘘じゃない!」 反論したのは鈴木さんだった。 「・・・覚えてないというのは嘘。ホントは私が見たの」 「では何故覚えてないと嘘を言いましたか?」 「・・変な目で見られると思ったから。だけど怖かったから誰か人に言いたかった。それで人から聞いたってことにすればいいと思ったの・・・」 「なるほど、ではお二人は?」 ナルは遠藤さんと真鍋さんに視線を送った。 「・・・私も見たわ。でも霊感があるって変に注目されるのが嫌で聞いたことにしたの」 そう答えたのは遠藤さん。 「私も見ました・・・。でもホンのちょっとだし、気のせいかなって思ってたから他にも見た人がいないか聞きたくて言ってみたんです・・・」 真鍋さんはぼそぼそと答えた。 「分かりました。・・・ではお尋ねします。皆さんが目撃した霊はどのような姿でした?」 ナルは三人に問いかけた。三人は戸惑ったように顔を見合わせた。 「見たのなら答えられるはずです。鈴木さんから答えてください」 「・・・髪の長い女の人でした」 「どんな髪型でした?」 「貞子みたいに髪が乱れててよくわかりませんでした」 「サダコ?」 ナルは貞子なんて知らないだろう。長い黒髪の女の幽霊がでるホラー映画だとこっそり教えた。 「なるほど。それだけで自殺した女生徒と決め付けたのですか?」 「いえ、手首から血がたくさん流れてました。それで例の女生徒かなって思いました」 「どこから血がでてたか詳しく覚えてますか?」 「ここから流れてました」 そういって、鈴木さんは左手首の辺りをさした。 「お二人は?」 「私もこんな風に手首からたくさん流れてるのを見ました」 遠藤さんも左手首をさして言った。 「私も・・・」 真鍋さんも二人の意見に同意した。 「・・・分かりました。もう結構です」 ナルがファイルをパタンと閉じると、三人はもう終わりだと喜んだ顔をみせた。 「早合点しないように。あなた達が霊を見たというのが嘘だということがよく分かったという意味です」 ナルがピシャリと言った。 「何でよ!嘘だって決め付ける証拠でもあるの!」 「そうよ何で頭から決め付けるのよ」 鼻白む二人に向かってナルは冷笑して答えた。 「人を騙したいならもっとよく調べることだな。亡くなった佐々木良子さんは左利きでかき切った手首は右側。左手から血が流れるはずがない」 「!!!!」 「・・・・・・・・・」 遠藤さんと鈴木さんは唇を噛み締めた。 「・・・見たのは随分前だからちょっと間違っただけよ」 鈴木さんは声を絞り出して尚も反論する。 「ではこれをご覧下さい」 ナルは一枚の写真を取り出した。 安原さんが持ってきた佐々木さんが映っている写真だ。 「ここには二名の女生徒が映っています。どちらかが佐々木さんです。見たことがあるなら答えられるはず」 ナルは三人に向かって写真をつきつけた。 「さあ、答えて」 遠藤さんと真鍋さんは顔を見合わせて躊躇している。 鈴木さんが意地になったように指差した。 「こっちよ!」 彼女が指差したのは長い黒髪を三つ編みにした女生徒、 佐々木良子さんの友人の方だった。 「佐々木さんはこちらです」 ナルは反対側の長い栗色の髪の少女を指差した。 「ッ・・・・・・・・・」 鈴木さんはまた間違ったのだ。 「佐々木さんは生まれつき色素が薄くこのように明るい色の髪だ。隣の女性は真っ黒。本当に見ていたら間違えるはずが無い。・・・そろそろ認めてはどうですか?」 ナルが言い切ったとき、突然真鍋さんがわ――っと泣き出した。それに釣られてか遠藤さんもしくしくと泣き始めた。 鈴木さんのみ唇を噛み締めて下を向いている。 ナルは溜息をついて写真を仕舞う。 「泣声の悪戯をしかけたのもあなた達ですね?」 ナルが聞くと三人は体をビクリと震わせた。 「今日、テニス部の部室からこんな物が見つかりました」 ナルは小さな四角い機械を取り出した。 「トランスミッター、離れたところから操作できる音楽機器です。これがエアコンの中に仕込んでありました。これなら好きな時に音を鳴らすことが出来る。泣声が聞こえて入室したら音を切って誰もいないよう細工することもできる。テニス部の鈴木さんなら簡単に仕組むことができるでしょう」 鈴木さんの手は関節が白くなるほどスカートを握り締めていた。追い詰められた様子にだんだん可哀想になってくる・・・。 「事実確認だけして下されば結構です。僕達はあなた達を断罪しに来たわけじゃない」 ナルはじっと三人を見つめた。 数秒の沈黙の後、 「・・・はい、私がやりました」 蚊の泣くような小さな声で鈴木さんが呟いた。 そして「私も手伝いました」「私も・・・」と他の二人も関与を認めた。 「・・・分かりました。このことは校長に報告させて頂きます。どうぞお引取り下さい」 三人の告白を聞いたナルは事務的に退室を促した。 三人は鈍い動きで身を寄せ合いながら退室していった。 ナルは校長に報告し、撤収の指示をだした。 * * * 「あの子達何であんな悪戯したんだろう・・・?」 撤収作業を手伝いながらナルに問いかけた。 「さあな」 「気にならない?何か切羽詰った感じがしたよね。人を脅かす悪戯がしたかったんじゃなくて、もっと深い訳があるような気がしない?」 打ちひしがれた様子で部屋を出て行った三人の様子が忘れられない。何か暴いてはいけなかったような気さえする。とても後味が悪かった。 「そこまでは僕達の仕事じゃない」 「そうだけどさぁ・・・、何かナルらしくなくない?」 「どこが」 「彼女達の罪だけ暴いて放置なんてナルらしくないよ。いつもならその理由さえ全部調べるでしょ?そんでちゃんと誰もが納得するようにするじゃん。大岡越前みたいに」 「何だそれは」 「昔の名裁判官」 「買いかぶりだ。興味が無いだけ」 「でも・・・」 「口を動かす前に手を動かせ。日が暮れる前に撤収するぞ」 「・・・はぁい」 麻衣は渋々ながら撤収準備に勤しんだ。 機材の撤収を終えて、ベースに使っていた教室を片付けている最中に招かざる客がやってきた。 「あれ?もう帰っちゃうの?」 ニヤニヤ笑いで話しかけてきたのは例の三人組の茶髪だった。 無視しながら片づけを続ける。 「つまんないの。もっとおねーさんと話したかったなー」 こちらが無視しても気にせず話しかけてくる。無遠慮に近寄ってくるのが鬱陶しい。こういうチャラチャラした男って大嫌いなんだよね。 「つれないなー」 茶髪がしつこく話しかけてこようとするのを押しのけて、黒髪を逆立てた男が聞いてきた。 「なあ、もう部室棟は調べないんだよな?」 「はい、調査は終わりましたから」 頷くと、「そう」とニヤリと笑った。 (何か嫌だな・・・) 早くこの三人から離れたくて、その場に会った道具を乱暴に箱に入れ足早に立ち去った。 彼らが追ってこないのにホッとした。 どこか後悔を残しながら、夕暮れ前に私達は撤収した。 |
2012.11.24 |
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