発端と始まり

「お腹すいたなぁ…」

 夜半SPR事務所、てバイト娘の谷山麻衣は呟きながらポチポチとパソコンに向かっていた。
 昨日まで調査に行っていたため、そのデータ整理、本部に送る用の資料作成、ラべリング、仕分け作業、などなど事後処理が山ほどあった。頼りになる安原さんがどうしても外せない用事があって早上がりしたので、麻衣は一人寂しく絶賛残業中だった。
 でももう9時を超えている。今やっているリスト作成が終了したら上がるつもりだった。

 バイトを始めた最初の頃は事情があって簡単な仕事しか割り振られなかったけれど、諸問題が解決しバイト歴も5年目に入る今はいろんな仕事を任されるようになった。働きを認められて嬉しい反面、ちょっとだけ困る。
 人使いの荒いナルは女だからといって容赦しない。どんどん仕事を渡してくるので、忙しい時は残業が深夜にまで及ぶ時もある。でもそういう時は車で送ってくれたり、タクシーを使わせてくれる。ナルはそういう配慮はキチンとしてくれるので有り難い。毎日じゃないし、たまになので文句を言うべきじゃないと思う。

 ただ、人付き合い的に困る時がある。

 ブルルルルルル・・・

「あ・・・」

 マナーモードにしていた携帯が机の中で震えた。
 相手は『榊原』、実は今回の調査でドタキャンしてしまった相手だった。
 仕事なので出るかどうかためらったが、幸いオフィスには誰もいない。ナルとリンはそれぞれの部屋に籠っているのでいないと言っていいだろう。ちょっとだけ話してあとでかけ直せばいいと思って着信ボタンを押した。
『久しぶり、いま平気か?』
「うん、誰もいないから大丈夫」
 声を聞くのは一週間ぶりだ。お互いの近況を手身近に話していると、彼が言葉をつまらせ、何か言いたいことがあるような雰囲気だ。黙って待っているとようやく話し始めた。
 そして出た言葉は・・・


『・・・別れよう。俺、谷山とやってけそうにない。・・・ごめん』


 榊原くんは付き合って三ケ月目の彼氏だった・・・。


 * * *


 少し話して、最後に「さようなら」と電話を切った。電話で別れ話をしたのは初めてだ。『・・・会って直接言うと酷いことをいいそうだから』だなんて、そんなに彼に我慢させたのだろうか。

「・・・・・・・・・」

 もしかして駄目かなぁとは思っていた。

 調査が入るのはいつも急だし、その後は暫く残業続きになる。
 ちょうど約束してた日に調査が入るとドタキャンになってしまう。しかも調査中はほとんど連絡もできないのでフォローも出来ない。穴埋めしたくとも、帰ってきてからも残業続きで暫く会えない。
 大学二年のこの歳で「ごめん、仕事が終わらなくて・・・」とか「仕事が入っちゃって・・・」なんて、どこのサラリーマンだお前?的な言い訳を使って理解してもらうのは難しい。
 私の状況(孤児であること、生活がかかっていること)を理解してくれるけれど、何度か続けば理解しつつも笑って許せなくなるのは仕方ないと思う。
 しかも職種が職種だ。怪我することも多い。何度か「別のバイトを探せば?」と言われてしまった。でもそれは頷けなかった。
 お金だけの問題じゃない。SPRは私の大事な居場所なのだ。一生この仕事をしたい訳ではないけれど、せめてこの分室が閉鎖されるまではここにいたかった。

「・・・やっぱ、理解してもらうの難しいのか、なぁ・・・」

 誰もがSPRの業務内容を聞いたら不審に思われるので、今ではただの調査事務所と言っている。彼とは付き合って三ケ月、理解してもらうには時間が足らないと思いまだ詳しい業務内容は話してなかった。それでも『辞めれば?』と言われてしまった。詳しい内容を言えばもっと強硬に反対されたかもしれない。

「広田さんにも言われたっけ・・・」

 『若い娘が死の現場で働くのは感心しない』と。

 友達ならまだ応援できる。でも家族や彼女が、危険のある現場で働くのを阻止したいと思うだろう。私も自分の子供がしてたら辞めさせたいと思うかもしれない。
 できればここで働く私を理解して欲しかった・・・。

 正直、榊原くんはジーンより好きになった人ではなかった。
 かの人は未だに自分の心にいる。
 告白された時に『もう亡くなったけど、好きな人がいるの』と言った私に、『それでもいいから』と言ってくれた人だったのに・・・。

「・・・っ・・・・・・」

 今は仕事中だ。電話が終わったら速やかに仕事に戻らねばならない。
 でも、画面がぼやけて文字が読みにくい。
 次第に全く読めなくなってしまった。

 ボタボタボタと落ちる涙を止めることができなかった・・・

「・・・くぅ・・・ひぃっく・・・」

 大丈夫、少し泣いたら元気になれる。
 そう自分に言い聞かせて涙を我慢するのを止めた。

「う・・・、・・・・・・」

 せめて声は出さずにおこうと、声を殺して涙が止まるのを待っていると、
 

 ガチャ


「麻衣、お・・・」
 空気を読まない所長様が、空気の読めないタイミングで所長室から出てきやがった。
 そして泣く私を見て言葉を詰まらせた。「お茶」と言いたいのだろうが、仕事の鬼な所長様だが泣いてる女の子に仕事を言いつけるほど鬼ではない。

「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」

「・・・またか?」
「・・・・・・・・・まただよ」

 これで通じてしまうのが恐ろしい。こういうとこばかりツーカーになってしまった。
 人一倍聡いくせに面倒くさがって空気を無視する所長さんは、その反動か、妙にタイミングが悪い。前にも私が振られた直後で大泣きしている時に居合わせたことがあった。
 そういえばジーンの時もいたな。あれも似たようなもんだ。
 だばだば涙を零している私をみて、同じ状況だと悟ったようだ。
 ナルはやれやれと言うように肩をすくめて

「これで何度目だ?」

 心底呆れるように言いやがった!そんな言い方しなくてもいいじゃんか!


「〜〜〜三度目だよ!馬鹿〜〜〜ッ!」


 ナルの無神経な一言に私の涙腺は崩壊した。





 * * *



  

 ナルのバカー!と叫びながらわんわんと泣いた。
 私が泣いている間、ナルは溜息をついて隣の椅子に座り、黙って資料を読んでいた。
 前の時も、その前もそうだった。
 慰めもしないが、一人にはしない。ただ傍にいてくれた。
 そして他愛もない話を少しして、いつものように「また明日」と言って別れる。
(いつもながら微妙な優しさだよなぁ・・・)
 対人関係に問題ありまくりな御仁だが、鈍感なわけじゃあない。それどころか人一倍敏感で聡く思慮深い。それが普段は面倒臭がって表に出さないで、こういう時だけ表に出す。その落差がちょっとズルイと思う。
 突き放した優しさとでも言うのだろうか、人にも相手にも負担のならない程度の優しさ。
 相手にも自分にも深く入りこまない、さりげない優しさ。
 私には真似できない優しさだ。真似するつもりもないけれど。
 英国紳士なんだよなぁ、なんてつらつらと考える頃には涙も引っ込みはじめた。いつもの常で、思いっきり泣くと少し気分が持ち直してくる。 
 それを読んだようにナルが席を立って行ってしまった。それを残念に思いながら息をととのえてると、ナルが戻ってきた気配がした。
 顔を上げるとふわりと紅茶の香りした。

「ほら」

 ・・・ナルから紅茶の入ったティーカップが差し出された。

「あ、ありがとう・・・」
 うーわー、ナルが紅茶淹れるなんて何年ぶり!この4年で何回もないよ!
 その貴重な紅茶をへへーと受け取ると、嬉しくてつい笑顔になってしまう。そんな私を見たナルは呆れるような溜息を零した。

「単純」
「ッだからどうしてそんな言い方しか出来ないわけ!!」
「事実だろう」
「そうだけど!」

 どうしてこう人の神経を逆なでする言い方しか出来ないかな!
 こいつは黙ってた方が絶対優しいね!
 涙は引っ込んだがムクムクと怒りが湧いてくる。

「振られたのはナルのせいもあんだからね!」
「僕のせい?」
「あの日だけは休みたいって前から言ったのに、休めなかった!」

 今回は本当に休みたかった。
 あの日は榊原君とコンサートに行く約束をしていた。私が好きな世界的な歌姫が来日していて、そのチケットを榊原君が私のためにとってくれたのだ。高いし、なかなか手に入らないチケットだ。多分、苦労して取ってくれたんだと思う。すごく嬉しくて絶対行きたかった。コンサートは夕方で仕事後でも間に合うけど、急な仕事を言いつけられて遅れることがないよう休みを取っていた。
 なのに、前日調査依頼があった。急を要する依頼だったのでその日から調査に入ることになり、私の休みはあっさり取り消された。
 ナルに『休みは取り消しだ。いいな?』と断定口調で言われて『デートなんで休みたい』なんて言えない。言ったらどんな罵詈雑言を浴びせられるかわかったもんじゃない。
 そして泣く泣くお断りの電話を入れたのだ・・・。

「仕事だ。仕方ないだろう」
「そうなんだけどタイミングが悪いんだい」

 ナルの眉間にひっそりと皺が寄る。
 分かってる。ナルは悪くない。
 でも恨みごとくらいは言ってもいいと思う。

「約束断る時、彼に電話してる時にナルが私の事”麻衣”って呼び捨てにしてるの聞かれたし」
「それが?」
「彼は私の事は名字で呼んでたの。なのに自分より先に『麻衣』って呼び捨てるの聞いて嫌だったみたい」
「呼び捨てなんかぼーさん達もしてるだろう」
「そうなんだけどさぁ、日本人は余程親しくないと下の名前を呼び捨てしないの。リンさんも呼ばないでしょ?そういう文化なんだよ。彼はシャイで呼びたくても呼べなかったみたい」
「・・・・・・」

 ナルは『面倒くさい』と顔に書いてある。うん、私も言われた時にちょっと『面倒くさッ』と思った。

「あと前に調査に行く時にナルが大学まで迎えに来たでしょ。あれ彼に見られたんだよね」
「・・・・・・」
「ナルって見かけだけはいいじゃない?しかも調査で約束をキャンセルしたから誤解したみたい・・・」
「誤解?」
「『自分より仕事を取るのは見目麗しい上司がいるせいだ』って」
「くだらん」

 誤解もいいとこだが彼の気持ちも分かる。だって誤解したくなるほどナルの容姿は極上だ。
 今回の仕事で行けないと電話口で必死に謝ってるときに、『麻衣、行くぞ』というナルの声が後ろで響いた。
 ナルの声は無駄に美声で良く通る。相手にも聞こえたのが、電話の向こうで彼が息を飲んだのでわかった。その直前まで『仕事を休め』と言ってた彼が、押し黙った後に低い声で『わかった』と言って電話を切ったので、。
 あの時が決定打だったらしい。

 『麻衣』と呼び捨てするほど仲が良い、自分より数段イイ男な上司がいる職場で、苦労してとったチケットのコンサートの約束を蹴るほど、仕事を優先する彼女・・・。
 谷山を信じたいけど、どうしても邪推してしまう。嫉妬してしまう。バイトを止めないなら続けられないと思う。別れよう。
 彼の言いたいことはこういうことだった。

「ナルの顔が無駄に良いのが悪いんだ」
「無駄とはご挨拶だな。同じ顔に惚れたくせに」
「笑顔が好きなんですー、顔の造りが好きなわけじゃないですー」
 口を突き出して言ってやる。だって同じようにナルが笑っても全然ときめかないもん。『顔に惚れたんじゃない!』と自信を持って言える。まぁ奇麗な顔だなと見とれることはあるけどね。
「毎回ナルってタイミングが悪いんだよねぇ・・・」
「知るか」
 何故かこじれてる時に限ってナルと一緒にいるとこを見られたり、調査が入ったりした。誤解しろと言わんばかりのタイミングで、だ。
「毎回似たような愚痴を聞かされる僕の方がイイ迷惑だ」
「毎回ナルが原因なのッ!」
「そんな些細な理由で振る相手と交際する谷山さんが悪いのでは?」
「些細じゃないやい!」

 元凶とまでは言わないが、切欠になった当人にしれっと言われば、頭に血がのぼる。

「あのねッ付き合いはじめの微妙な頃に、いっつも変なタイミングで仕事入ったり、ナル見られたりすれば長く付き合えるものもの付き合えなくなるよ!」
「ふうん?」
「『ふうん?』じゃないッ!ナルのタイミングの悪さが切欠なんだからね!ちょっとは責任感じなさい!責任とれッ!」
「・・・・・・」

 言いがかりだし八つ当たりだと分かってる。だって振られた一番の理由は違うから。
 でもナルは怒らず聞き流してくれる。私が好き放題言ってもナルは右から左に流して気にしない、というか気にするほど私に興味が無い。このワーカホリックな御仁は仕事の邪魔さえしなければ妙なとこで寛容だったりする。だからこんな戯言を言っても聞き流してくれる。
 いつもならそのはずだが・・・、

 あれ、何かナルの眉間のしわが深くなった。

 しかも黙って何事か考えている。

 もしかして、怒らし・・・た?

 ちょっと調子に乗っちゃったかなぁ・・・
 
 涙も止まった、八つ当たりするくらいは元気が出た。もう十分だ。
 いつまでも甘えていてはホントに怒られてしまう。暴言をさっくり謝って仕事に戻ろう、そう思った時


「では責任をとって差し上げましょう」

「へ?」

 突然博士様がのたまわった。しかも何かを企んでる時の丁寧語だ。

「谷山さんがおっしゃる通りに、責任をとらせて頂こうかと」
「い、いや〜そんな気にしなくても・・・」
「遠慮することはないですよ?」

 そう言ってナルはにっこりと笑った。ウソ臭いくせにキレーな笑みなのだから始末に負えない。こういう時は逆らわない方がいい。後でえらい目に遭う。
 でも大体責任とるってなんだ?
 休みを取り消した代わりに数日有給くれるとでも言うのだろうか?

「えと、責任取るって・・・どうやって・・・?」
「責任は責任ですよ」
 答えにならない答えを返してまたニッコリと笑った。だからその笑顔怖いって!寒いから止めて!
 私がひぃぃぃいと恐れて答えられずにいると 
「責任とって欲しいか欲しくないのか、どっちだ」
 ナルは笑顔を止めて、いつものしかめっ面に戻って答えを強請った。
 アメと鞭・・・じゃないな、どっちも怖いもん。
「じゃ、じゃあ取ってもらおうか、な・・・」
 有給くれるなんて甘い期待はしてない。ここで『取って欲しくない』と答えるとどんな目に遭わされるか分からないからだ。新たな仕事でも言いつけられるんだろうなと思って、しどろもどろに答えると
 ナルは口の端だけ上げて、ニヤリと満足げに笑った。
 その笑い方、顔が奇麗な分すっごく悪い人みたいに見えるんですけど!!!

「では、今日から僕が付き合って差し上げますよ」

「は?どこへ?」

 こんな時間にやってる本屋はない。

「馬鹿、違う」
「じゃ何処よ」

 他にどこがある?それともヤケ酒に付き合ってくれるとか?
 いやナルに限ってそんなのある訳ない。私だってナルとヤケ酒飲みたいと思わない。
 
「僕のせいで振られたと言うのなら、代わりに僕が付き合って差し上げましょうと言ってるのですが?」

「は?」

 こいつは何て言った?付き合う、だ?

「・・・”付き合う”って男女交際の”付き合う”?」
「この場合他にあるか?」

 やっぱ間違ってないらしい。

「・・・・・・・・・・・・・・・」



 一 体 何 が ど う し て そ う な る の !
 


「意味分かんない!」
「怒鳴るな。泣き過ぎてとうとう日本語が分からないほど馬鹿になったか」
「そんな泣いてないやい!」

 いや、振られた女がそうさっぱりするのもどうかと。イレギュラーズがいたら間違いなくそう突っ込まれるだろう。

「ナルは私の事好きじゃないじゃん!」
「そうだな」
「なのに何で付き合おうなんて言うのさ!訳わかんない!!」
「『責任とれ』と言ったのはお前だが?」
「こんな責任の取り方ならいらないやいッ」
「遠慮なさらず」
「してないっての!」

 話にならない!一体博士様のは何を考えてらっしゃるんだ!?
 好きでもない女と付き合う理由なんかない。まぁ彼の場合は好きな女が出来るかどうかすら怪しいのだが・・・。
 メリットでも無ければ女性と付き合うような御仁じゃない。


 ん?メリット・・・?


「…何企んでる?」

 じろりと睨みつけると、私の言葉を肯定するようにナルは口の端だけで笑った。その含みのあるくせにキレーな笑みは、何か企んでますと雄弁に物語っていた。

「交際相手がいるのに見合いをごり押しする野暮はそういないな」


 や っ ぱ り か !!!

 まだ20歳のナルだが、その美貌故に社交界で見染めたご令嬢からのお誘いが掃いて捨てるほどあるらしい。特殊な分野の研究者だが将来有望なので婿として申し分ないと判断されたらしく、成人してから縁談話しが舞い込むようになったそうだ。SPR付けで見合い写真が送られてくるたんびに、ナルがものすごい不機嫌になる。人ごとだが大変だなぁと同情はしてた。

 でも自分が見合いを断るダシにされるのとは話は別!

「虫除けのための彼女になるなんてヤダよ!」
「お前が責任を取れと言ったんだ。自分の言葉に責任を持て。お前に拒否権は無い」
「無茶苦茶だ!」
「この僕と付き合えるんだ。光栄に思っておけ」
「何様だあんた!」

 確かに頭も顔も才能も最高だが、こと人間性においては底辺をさまよっている。悪い奴じゃないが人と人との触れあいを無駄と判断し限りなく除去している。上司として仲間として全幅の信頼を置いているが、間違っても恋人にしたいタイプじゃぁない。
 でも、一旦こうと決めたら絶対に押し通す御仁だ。
 ナルの中で(見合いを断る恰好のネタとして)麻衣と付き合うことは決定事項であって、『嫌だ』と言っても余程の覚悟と理由がなければ覆すことは難しい。

「意義あり!こんなの責任をとったとは言わない!!」
「何故?」
「私はナルと付き合いたくないっ!」
「そうか?」
「当たり前だいッ」

 ナルは、「ふうん」と気が無さそうに呟いた。
 このまま言い連ねて逃げ切ろうと思いきや

「お前はジーン以外なら誰でも同じだろう?」

「!!!!!」

 決定的打撃を与えられてしまった。
 喧嘩は黙ったら負けだ。
 何か言い返さないとこのまま付き合うことを了承させられる。
 だけど、反論なんか出来っこない。だってそれは真実なのだから・・・。
 酷い奴だ。本当に酷い奴だ。
 時に、誰よりも私の心を見透かす・・・。

 絶句してる私に向かって
 ナルは「だったら僕でもいいだろうが」と何の感慨もなさそうに続けた。

「ではそういうことで」

 そして、奴は所長室に消えた。

 しばらくの間、私は何も言えず、手の中の紅茶が冷えるまで動けずにいた。


 こうしてナルは私の彼氏になった。






END


こんな無理やりな始まりの二人です。ははは。
麻衣ちんに彼氏がいたの嫌な人はごめんなさい。でも博士と付き合うにはそれくらいの前準備無いときっついと思うんだなー。普通の恋人関係も経験しといたほうがいいと思うよ。

2011.2.8
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