本日閉鎖されるDouble Trapのぐれさんに捧げます。
未練たらたらssですが受け取って下されば幸いです…。
決して風流な自分ではないけれど、何故か花見だけはしたくなる。
ニュースで桜の開花情報が流れるとそわそわして花見に行きたくなる。
それは大抵の日本人がそうで、僕と同じく風流とは対極にいる葛西さんも同じだった。
コンビを組んでからもう何年も経つけど毎年一回は花見に行っている。仕事帰りにちょっと寄るとかそういうついでのような花見だけど毎年欠かしたことが無い。
今年も仕事帰りに桜が見れる場所を見つけたので花見をすることにした。大の大人の男が二人で真夜中に土手でビール飲んでるなんて怪しいことこの上ない。けどそれが許されるのが花見だ。
土手に腰掛けてビールをちびちびやりながらはらはら落ちる桜を眺めるとしみじみと日本人で良かったと思う。
「キレイですねぇ…」
「おー」
「徹夜明けだっていうのに、帰って寝ればいいのに、何故か花見はしたくなるんですよねぇ…」
「言えてる」
5日前に起きた事件から今日まで不眠不休で走り回っていた。今日無事解決したけれど昨日は徹夜だった。体は泥のように疲れていたので帰って寝ることしか考えてなかったのに、桜を見た途端『ああ、花見がしたい』と思った。葛西さんに「花見したいですねぇ」と言ったら「悪くないな」で急遽花見を決行してしまった。
つまみはコンビニで買ったスモークタンとスモークチーズに鳥の唐揚げ。酒もビールのみ。そんな寂しい宴席だが桜を見ながら酒を飲めただけで十分満足だ。
二人でビールを呷りながら、舞い落ちる桜をただ眺める。
こんな見頃の良い時期に花見が出来るなんて今年は運がいい。
はらはらと舞い落ちる桜はひたすらキレイだった。
「何でこんなに桜って奇麗なんでしょうね」
「そりゃおめぇ、日本人のDNAに刻み込まれてんだよ」
「『花見すべし!』ですか?」
「違う日本人てな有終の美ってーのが好きだからな」
「ああ、確かに」
「この散り際が最も美しい桜に惹かれるようにできてんのさ」
「なるほど…」
「実際はこんなキレーに終わることなんかないんだけどな」
「ホントですよね」
今日解決した事件は殺人事件だった。被害者は刃物で刺されて亡くなった。抵抗したのか床に爪を立てて体を引きずり、長く血の跡が残っていた。とても綺麗な死に様とは言えなかった。
「ほとんどないからこそ、憧れて惹かれるのかもしれんがな」
「そうかもしれませんね…」
目の前で舞い落ちる花弁のようにキレイな終りなんて見たこと無い。
「でも僕はキレイじゃない終りの方が好きです」
「ん?」
「今回だって被害者が抵抗して、足掻いて証拠を残してくれたから無事解決したじゃないですか」
「まーな」
抵抗せずあっさりと刺されて亡くなっていたら事件は解決しなかったかもしれない。キレイな死に顔じゃなかったし血の跡もひどくて全然キレイじゃなかったけど、その足掻いたお陰で犯人逮捕に繋がった。
「だから僕はキレイな終り方より、キレイじゃない終りの方が好きです」
「…………」
ちょっと恥ずかしいこと言っちゃったかなーと思いつつ横目で葛西さんを見ると、その口元が笑っていた。
「俺もだ」
そう言って渋く笑った葛西さんが吐きだした煙が、空に消え、花に溶けた。
多分来年もこうして桜を見るんだろうなと思いながら、またビールを呷る。
煙る桜も悪くない。