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恋をしらず

ここのこっぱずかしいブログ名の由来。
このネタを一番はじめに思いついたので、もしバサラサイトをやるならこのネタの名前をつけようと思った。↓です。ちゃんとまとめてないけどご興味あればどんぞ。

続き


 秋の空

 ぽっかり浮かぶ月を眺めながら酒を飲む。
 先ほどまでは酒の相手がいたがいまは中座しているので政宗一人だった。

 この時ばかりは戦のことも天下のことも忘れ、ただようように思考する。
 次の手合わせはどうしようか、白石の頭が薄くなったとか、今年の水茄子は美味かったとか、つらつらととりとめもないことに思いをはせていた。

 その中でふと、先日京で会った前田の風来坊を思い出した。

「恋はいいよ!恋は!」と盛んに繰り返す前田の風来坊は自分より年上のはずだが図体のでかいガキみたいなもんだった。

 ったくお気楽でいーやなと鼻で笑っていたが、あんまり言うので、ふと、恋とはそんなに良いものだっただろうかと、自分の記憶を探ってみた。

 が、ない。恋の記憶がない。

 恋をしたことがな、い・・・?

 筆おろしも済ませ、伽女も、小姓もいるというのに、今更・・・?

 そんな馬鹿なと思いつつも記憶にないのは仕方が無い。
 
 今思えば、幼少時は右目のせいで女子には疎まれ自分も竦み淡い恋心を抱く心の余裕が無かった。
 性に興味が持ち始めたときは伽女があてがわれ筆おろしもすませた。暫くその伽女に夢中になったがあれは恋とは違うだろう。
 あとは戦、戦、戦、と、政、政、政、の繰り返し。
 恋のような潤いのある生活とは無縁だった。

 うちの軍は女っ気ねぇしなぁ・・・。少々上杉や浅井が羨ましい気もしてつい苦笑する。
 
 いずれ嫁は取るつもりだが出来ればもう少し後でいいと思っている。 

 女が嫌いなわけではない。
 閨ごとは好きだし、可愛いとも思う。・・ただそれだけだ。
 母親との関係からして女に幻想どころか恐れを抱きながら育ち、女を知った今では恐れも恨みもないが暗い澱のようなものが残っているのだ。
 
 女は恐い。
 
 前田まつのように信頼にたる女がいるのも知っている。

 でも恐いものは恐い。

 いつきのように可愛いくて純朴な女がいるのも知ってる。

 それでも、恐いのだ。

 女の恐さが身に沁みているので、女に対し憧れを抱くような感情を抱くことが出来ないのかもしれない。

 そりゃ恋なんか出来るはずもない。自嘲する。

 それでも出来るのなら恋をしてみたいとは思う。
 相手のことを思いほのぼのと柔らかい気持ちを持てるのは良いことだ。
 そしてそのような相手と結ばれるのは幸せだろう。

 女に対する恐れを、澱を越えるような相手・・・
 
 傾国の美女か、知略に優れた賢女か、はたまた・・・

「失礼します。」

 生真面目な声に思考を邪魔される。声と共に現れたのは自らの傅役、片倉小十郎だ。頬傷のある強面だが智将として伊達三傑とまで呼ばれる男。ちょっとばかり口うるさいが誰より俺を心配し
 
 ・・・はたまた、こいつのように生真面目で献身的で信頼に足る女があらわれるか。

「・・・政宗様?」
「無理だな」
「は?」
「あ、いやなんでもねぇ。ご苦労だったな」


 自分の思いつきについ笑ってしまう。

 こんなやつは女でも男でもそういるもんじゃぁない。

 だったら俺は一生恋を知らないのかもしれない。


「何をニヤニヤしておいでか。小十郎の顔に何か付いておりますかな?」
「いや、ちと変な想像しちまってな」
「?」

 こいつは恋をしたことがあるだろうか。

 酒の肴に聞いてみることにしよう。


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結局はムネ様は恋をしらぬが愛はしってるというオチなんだがそれらを酒の肴にぽつぽつ話していく連作の予定だった。
あとこじゅに慣れぬ話に右往左往してもらいたい。
書くかどうかは微妙だが。